2017 Fiscal Year Annual Research Report
沈従文の「湘西小説」における思想的展開の研究―『長河』を中心に―
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17J03159
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
高尾 有紀 奈良女子大学, 人間文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 沈従文 / 湘西 / 阿麗思中国遊記 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、北京国家図書館、陝西省図書館、上海図書館、および重慶図書館等の機関において資料調査を実施した。瞿子清「湘西苗彊見聞記」(『学生之友』第2巻第3期、1941年)等、研究対象作品である『長河』が書かれた1930年から40年代の湘西地方のイメージを喚起する記事や、沈従文が西南聯合大学に在籍した時期における、西南聯合大学内部の状況を示す記事等、研究課題の基礎となる同時代資料を収集・確認することができた。さらに『長河』初版本・諸テキストの収集も進展した。 また、重慶への現地調査を実施した。民国時期重慶における国民政府の遺構として、白公館、桂園、中国民主党派歴史陳列館等を見学した。特に、国民党の教育部があり多数の国民党系知識人の集まった北碚区では、梁実秋紀念館(雅舎)、四世同堂紀念館(老舎旧居)等、沈従文の創作活動、および日中戦争時期における内陸都市文壇に強く関係した作家の旧居を訪問し、展示資料の見学・調査を行った。中国民主党派歴史陳列館では『中国民主党派歴史陳列解説詞』(重慶出版社、2011年)を入手し、内陸都市に集まった知識人の共産党体制における立場の変遷等、新たな知見を得ることができた。 研究成果は、沈従文が〈湘西〉イメージをいかにして小説内に創り上げたかという点に着目し、特に初期の「湘西小説」である『阿麗思中国遊記』を中心に考察して口頭発表を行った(日本現代中国学会2017年度関西部会大会、同志社大学、6月3日)。さらに、北京及び西安における論文・資料収集の成果も加味して、初期の湘西小説における〈湘西〉イメージの変遷について口頭発表を行った(日本・アジア学会言語文化学会、大阪教育大学、11月23日)。初期小説に焦点を当てて丹念に思想の変遷を辿ったもので、本研究課題の「「湘西小説」における思想的展開」のうち、初期の湘西表象を明らかにしたものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、第一次資料の収集等、基礎となる調査が優先すべき課題であり、文献調査に重点を置いた。研究成果の公表は学会における口頭発表が2件であり、当初の計画より論文の公刊がやや遅れていると考える。ただ、基礎研究に関しては着実に成果を上げることができた。一方で、内陸都市における国民党系の知識人ネットワークに沈従文の活動を位置づけるという目標については、なお不明な点も多く、2年目となる本年度、一層の本格的な取り組みが必要となる。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目となる平成30年度は、引き続き『長河』を中心に調査・研究を行うこととする。日中戦争時期の新聞記事や、沈従文と交流のあった国民党系知識人の回想録や散文等、同時代資料の精読を進め、『長河』に及ぼした影響ついて考察することとしたい。また、29年度に学会発表した研究成果を論文として公刊し、『長河』に関しても、初年度の調査内容を踏まえて研究発表を行う予定である。5月には調査旅行を国立台湾大学図書館・国家図書館(台北)で実施する。上記に関する資料収集のため、上海図書館においても再調査を行う予定である。 最終年度は、これまでの研究の中で調査が及ばなかった点について、さらに詳細な研究を志す。例えば、中国内陸部出身の知識人が香港で創刊した刊行物等である。『長河』と〈湘西〉イメージを中心に、1930年代後半の日中戦争と知識人の思想的展開、また戦争中の作品発表を可能にした内陸部ネットワークといった点を視野に入れ、学会発表を行い、論文の公刊を目指す。
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Research Products
(2 results)