2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17J03202
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
多賀 良寛 慶應義塾大学, 言語文化研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 阮朝 / 嗣徳帝 / 財政 / 貨幣 / シュ本 / 領事報告 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、嗣徳帝期ベトナムの経済変動の解明という研究課題のなかでも、財政構造と資源配分システムの変化というテーマについて重点的に取り組んだ。具体的には、1860~1870年代の北部ベトナムにおける軍事支出の増大が、フエを頂点とする阮朝の財政運営にいかなる影響を与えたのかという問題の解明を目指した。 研究の実施にあたっては、2017年9月にハノイの国立第一公文書館で関連する阮朝シュ本を調査した。シュ本の調査からは、北部地域での軍事作戦に要した経費、前線に駐屯した兵員の規模、フエから北部前線に輸送された物資の数量など、公刊史料に見られない多くの数量データを得ることができた。また同じくシュ本の分析により、1874年の第二次サイゴン条約の締結によって設置された海関(ハノイとハイフォン)の関税収入が、洋式銀貨の形で北部前線に投入されていた事実を明らかにした。これら一次史料の調査結果に基づき、2017年12月2日に神田外語大学で開かれた東南アジア学会第98回研究大会で研究報告を行った。 また上記の研究と並行し、阮朝期の国家儀礼に伴う威信財の移動の分析、ベトナム中世貨幣史の展開とそのアジア史的位置付けの解明、19世紀ベトナムにおいて洋式銀貨の浸透が与えた影響の検討といった諸課題に取り組み、その成果を学会・研究会での口頭発表に反映させた。 最後に、平成30年3月にはフランス・エクサンプロヴァンスの国立海外公文書館で史料調査を実施した。主な調査対象は、インドシナ総督府(GGI)の文書群に含まれるフランスの領事報告史料である。調査ではきわめて大量の報告書を確認・撮影したが、なかでも海外からの私鋳銭流入に関する史料を複数確認できたのは重要な成果であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題のうち、19世紀末の軍事支出の拡大と財政構造の転換という問題を漢文の公刊・未公開史料に基づいて着実に解明し、成果発表にまでつなげることができた。とくにベトナムの国立第一公文書館に所蔵されている未公開史料のなかから、研究課題に直接する多くの文書を発見できた点は評価できる。 これとならび、当初の計画にそってフランスの国立海外公文書館での現地調査を実施し、領事報告史料の閲覧・撮影を行ったのは重要な成果である。フランスでの文書館調査と非漢文史料の探索は、申請者にとって経験のない新しい挑戦であったが、現地のアーキビストの協力もあってきわめて順調に調査を行うことができた。これによって次年度以降に予定しているフランスでの調査の足がかりをつかみ、未公刊の漢文史料とフランス語史料とを組み合わせて嗣徳帝期ベトナムの経済変動を解明するという研究課題実現の基礎が整った。 このほかにも、阮朝期の贈与経済の解明やベトナム中世貨幣史の検討などの新たな研究テーマに取り組み、その成果を口頭発表に結実させることができた。そこで行われた他分野の研究者との活発な意見交換は、研究課題をよりおおきな視野のもとに位置付けるのに役立った。 以上の諸成果を踏まえると、本年度において研究課題はおおむね順調に進展したと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、これまで入手した漢文・フランス語史料の読解を進めるとともに、初年度の研究成果を和文・英文論文としてまとめ、学術誌に投稿する。そして、嗣徳帝期に起こった経済変動の全面的な解明にむけ、研究の具体的テーマをさらに広げていく。具体的には、次の三つの課題に取り組む方針である。 まず、漕運制度を軸とした阮朝の海上輸送システムが、19世紀後半にいかに変化していったのかを分析する。①輸送ルート(海運/江運)をめぐる朝廷の議論②海運への蒸気船の導入③華人による漕運事業の請負という三つの問題を軸に、漢文史料とフランス語史料を組み合わせて検討を進める。 つぎに、嗣徳帝期ベトナムにとって香港の存在がもった意義を明らかにする。阮朝による香港への使節派遣や、造幣用機械の輸入問題をめぐり香港で発生した訴訟問題などを手掛かりとし、ベトナムと香港とのあいだに見られたヒト・モノ・カネの流れを検討する。 最後に、十九世紀後半のベトナムにおける洋式銀貨の浸透過程を、市場取引と財政運営の双方に着目して考察する。またベトナムの事例を日本や中国など他のアジア諸国の事例を比較しつつ、洋式銀貨の受容におけるアジア各地域の共通性と相違点を明らかにする。 以上の研究課題に取り組むにあたり、初年度同様ベトナムの国立第一公文書館およびフランスの国立海外公文書館でさらなる史料調査を行う。
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Research Products
(6 results)