2017 Fiscal Year Annual Research Report
The adaptation strategies of ethnic minorities based on religious identities
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17J03207
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山下 泰幸 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | イスラーム / フランス / イスラモフォビア / 宗教社会学 / エスニシティ / ムスリム / レイシズム / 質的調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の初年度にあたる2017年度は、以下の研究活動を行った。 第一に、2016年夏季にフランスで実施した質的調査に基づくデータから、パリに在住する社会・経済的な成功をおさめる北アフリカ系の移民二世のムスリムたちの語りを分析し、その結果を2017年5月に開催された関西社会学会第68回大会にて口頭発表した。そこで得られた批判を受けて内容を大幅に再検討したものを、2018年1月に学術雑誌『ソシオロジ』に研究論文として投稿し、査読の結果、2018年7月に刊行予定の同誌192号での掲載を許可された。この研究においては、新しいイスラームの理念型のひとつでとして「順応型イスラーム」という概念を提起した。新しい世代のムスリムたちの一部は、目立った信仰実践を行わないことで、社会・経済的な成功を目指す上で周囲の人々との間で発生しかねないコンフリクトを回避していることが明らかになった。 第二に、今後の研究において理論的な一つの主軸として用いるために、ポストコロニアル研究に関連する理論的な先行研究を広く収集・学習した。とりわけスピヴァックやモハンティなどをはじめとするポストコロニアル・フェミニズムに関連する研究や、フランスにおいて比較的参照されることの多いサヤードなどの著作を読み進めた。ポストコロニアル研究の影響が限定的であるフランスのイスラーム関連の先行研究を批判的に再検討するためには、このような研究において用いられている視座が必要不可欠である。 第三に、2017年夏および2018年初春に、それぞれ二カ月程度フランス・パリに滞在し、ムスリム・コミュニティへの参与観察およびインタビュー調査を実施した。この調査結果をもとに、今後、ジェンダーとレイシズムへの抵抗の関係性に焦点を当てながら、ムスリムとしてのアイデンティティを有し、自らの権利を主張する女性たちを事例とした分析を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の初年度にあたる2017年度は、以下のような大きな進展があった。 2016年夏季にフランスで実施した質的調査に基づくデータを分析し、その結果を2017年5月に開催された関西社会学会第68回大会にて口頭発表した。そこで得られた批判を受けて内容を大幅に再検討したものを、2018年1月に学術雑誌『ソシオロジ』に研究論文として投稿し、査読の結果、2018年7月に刊行予定の同誌192号での掲載を許可された。この研究により、イスラームの聖典クルアーンの内容と無矛盾なやり方によって、信仰実践の回避を正当化するという彼らの思考過程において、移民第一世代のイスラームとは大きく異なる、「順応型イスラーム」が生み出されていることが明らかになった。この内容は博士論文の一つの章となる予定である。 また、2017年夏および2018年初春に、それぞれ二カ月程度フランス・パリに滞在し、ムスリム・コミュニティへの参与観察およびインタビュー調査を実施した。この調査結果をもとに、今後、ジェンダーとレイシズムへの抵抗の関係性に焦点を当てながら、ムスリムとしてのアイデンティティを有し、自らの権利を主張する女性たちを事例とした分析を行う予定である。その研究成果については、2018年夏季に中国・上海にて開催されるカルチュラル・スタディーズの国際大会において口頭で発表を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度前半は、ジェンダーおよびレイシズムへの抵抗という観点に注目し、ムスリムとしてのアイデンティティを有しながら自らの権利を主張する女性を事例とした研究を行う予定である。これに伴い、2018年2月から4月にかけて、フランスにおいてムスリムの女性を対象としたインタビュー調査を実施する予定である。また、8月に上海において開催されるカルチュラル・スタディーズの国際学会において、その研究報告を実施する予定である。 先行研究および筆者によるこれまでの調査結果から鑑みると、新しい世代のムスリム女性の一部は、一定程度のジェンダー平等が実現されたフランスの社会的規範を反映し、西洋的な個人主義およびフェミニズムの影響を受けた、よりリベラルな宗教規範を伴うイスラームを生み出しつつあると予想される。このような新しいイスラームのひとつを理念型として整理する予定である。フランスにおいて支配的なフェミニズムは、共和主義および白人中産階級の文化を内面化したものとなっており、自らの権利を主張しながら社会参加する一部のムスリム女性の存在は、家父長的なイスラームとおよび世俗主義的なフェミニズムの両方に対してコンフリクトを巻き起こすものである。 最終的に本研究では、以上のような理念型を含んだ、フランスの多様な新しいイスラームを整理し、それらに見られる共通点と差異を浮き彫りにしながら、現代社会の構造的な圧力の下でエスニックマイノリティがどのように宗教という一つの文化を生み出すかについて、社会学的な発見を目指す。
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Research Products
(2 results)