2017 Fiscal Year Annual Research Report
フレーミングに着目した、政策に対する社会運動の影響分析:チリ学生運動を事例に
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17J03225
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三浦 航太 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 社会運動 / フレーミング / 政策過程 / 高等教育政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度はチリの高等教育の無償化に関する政策過程の前半部分に当たる、アジェンダセッティングと具体的な政策内容の議論という段階に関する資料・データ収集及び分析を行い主に3つの研究成果を得た。 第一に、アジェンダセッティング期における教育議論に対する学生運動の潜在的な影響を探るために、運動を通じた教育論議の活発化に関する計量分析を行った。運動が大規模化した特定の年にのみ分析が集中する傾向にあるチリの学生運動研究にあって、本研究は小規模な慣例的な運動であっても教育議論の活発化に影響を持ちうることを明らかにした。分析結果はLASAや日本ラテンアメリカ学会において発表した。新聞記事の信頼性や収集方法、計量分析の手法に関する助言を得ることができた点で意義ある学会発表となった。 第二に、学生運動が高等教育の無償化をいかに規定しその内容を変化させることによって、他のアクターから無償化案に対する支持を獲得したのか分析を行った。2017年8月から9月にチリに滞在し収集した運動組織の資料等に依拠しながら、学生組織が2011年の学生運動を通じて急進的な無償化案を他のアクターの持つ価値との調整を行い支持を獲得したという分析結果を得た。本内容についてはラテン・アメリカ政経学会で発表を行い、政治アクターの認識の変化やフレーム理論を用いることの妥当性に関して助言を得た。 第三に、政策過程の次の段階である具体的な政策内容の議論に関する分析を開始した。それまでの分析同様に新聞記事、政府文書、運動組織資料、SNSのデータを収集し、無償化政策案を各アクターがどのように構築し議論を行ったのかを整理を行った。その内容について、チリと同様に高等教育の無償化に関する議論がなされている日本の事例と比較しながら、国際ワークショップ(メキシコ)で発表を行い、比較可能性や分析枠組みに関して示唆を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
チリの高等教育の政策過程に対する学生運動の影響を対象とする本研究は、政策過程を複数の段階に分けて分析している。平成29年度は前半部分であるアジェンダセッティング、具体的な政策内容の議論に関して、資料・データ収集、分析・分析結果の発表に至った点で順調に推移していると考えられる。 第一に、資料・データ収集に関しては、概ね予定通りに推移している。学生組織資料について、従来よりチリのサンティアゴにあるチリ大学学生連合のアーカイブスを利用していたが、近年インターネット上での組織資料の公開が進んだことでそれらの収集は予想以上に進展している。新聞記事については、使用しているチリの新聞社の検索機能が一時期使用不可になったため、アジア経済研究所のマイクロフィルムや他紙を用いるなどして収集作業を継続した(現在検索機能は使用可)。SNSのデータに関しては、Elasticsearchと呼ばれるアプリケーションを用いて投稿データを収集保存するシステムを構築し、随時システムの更新を行なっている。ただし、テキストの量的分析を行うためのデータ加工については未着手であるため、今後作業を進めていく必要がある。 第二に、分析・分析結果の発表に関しては、特にアジェンダセッティング期に関して、設定した問いに従って量的分析と質的分析の両方を行い相補的な分析を行えた点で十分な分析を行うことができたと考える。具体的な政策内容の議論については、各アクターの議論の整理を行っている段階である。各アクターの議論がいかなる相互作用を通じて一つの政策に収斂していくのかという分析が残されている。4度の学会発表を行ったことは予定通りであるが、そこで受けた指摘を踏まえて再度分析内容を見直すことが必要である。特にアジェンダセッティングに関する計量分析については分析対象とする新聞記事の選定について見直し再度分析を行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、具体的な政策内容の議論に関して、各アクターの議論がいかなる相互作用を経て特定の内容に収斂していたのか分析を行う。その分析内容については2018年5月に実施されるLatin American Studies Association大会(スペイン)で発表する予定である。 次に、政策過程の後半部分となる議会・政府における法案審議と政策施行後との段階に関する分析を実施する。具体的には、法案審議については従来通り新聞記事を収集すると同時にチリ議会の教育委員会の議事録等を収集し分析に用いる予定である。特に学生運動出身の国会議員が無償化政策の審議において言説の伝播に果たした役割に着目して分析を行う。この段階ではそれまで中心的アクターであった学生組織以上に政治アクターの動きに焦点を当てることが必要だと考えられる。本分析の内容についてはラテン・アメリカ政経学会等で報告を行うことを考えている。 政策施行後の段階に関しては、再度学生運動を中心とした分析となる。この段階においては2017年に実施された大統領選挙における政策議論に与えた影響に着目して分析を行う。退潮傾向にある運動が自らの運動をいかに再定義し言説を再構築することによって無償化政策に関する運動を継続し影響を保持しようとしているのかを分析する。選挙に関する資料も含めて現段階で不足している情報については適宜追加のフィールドワークを実施することで対応する。 研究上の課題としては、市民の言説を分析するために必要な、SNSの過去の投稿データの収集に関する問題がある。現段階では過去のデータの取得は難しい状況であるため、情報コミュニケーションの専門家の助言を仰ぎながらこの問題に対する対応を検討する。SNS以外にもブログ記事の活用やインタビュー等を通じて市民の言説や認識に関する調査は可能であり、設定する問いに応じて適当な分析手法を選択し分析したい。
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Research Products
(6 results)