2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J03358
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高井 寛 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | ハイデガー / 行為 / 空間 / 死 / 意図 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ハイデガー『存在と時間』の解釈を中心として、ハイデガーが構想していた「行為の哲学」の実相を明らかにすることを目的としている。その目的の実現に向けた部分課題として、本年度は大きく分けて三つの成果を得ることができた。 一つ目の成果は、ハイデガーが展開した「死」の考察を、行為者が自らの行為の指針を選択するという場面に即して、自分の人生の全体を俯瞰する試みを分析したものとして解釈することができたことである。この成果は2017年6月の哲学/倫理学セミナーにおいて口頭で報告された。 二つ目の成果は、ハイデガーが『存在と時間』中で展開した空間論(『存在と時間』§22~24)を、行為論の文脈で解釈する方途を見出したことである。この研究成果は、第38回日本現象学会にて口頭で報告された。またその内容に基づく論文が雑誌『現象学年報』に提出され、査読審査を経て掲載が決定した。 三つ目の成果は、ハイデガーの行為論の基本的な構図を示す「周囲世界分析」(『存在と時間』§15~18)と、他者たちと共に生きる社会的な存在としての私たちの在りようを分析する「共同存在論」(『存在と時間』§25~27)を横断的に読解することで、「意図せざる意図的行為」についての興味深い考察をそこから引き出すことができたことである。この研究成果は、『存在と時間』の出版90周年を記念するシンポジウムにて報告され、同シンポジウムの発表を収録した論文集『Zuspiel』第1号に論文として掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、ハイデガー『存在と時間』の解釈を中心に、ハイデガーによる「行為の哲学」の実相を明らかにすることを目的とするものであるが、現在までの進捗状況はおおむね順調である。多様な論点を含むために統一的な解釈を拒む『存在と時間』を「行為の哲学」として一貫して読み解くという本研究の試みは、現在までのところ成功しており、この限りでは、予想していた以上の成果を得ることができたからである。 他方で、現代行為論および倫理学の知見をハイデガー解釈に生かすという、本稿が採用した方法の観点から見れば、研究の進捗に目覚ましい成果があったとは言えない。本年度の研究成果は、内在的なテクスト解釈に慎重にとどまるものが多かったためである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、いくつかの部分課題に分けて行われる。そのうちの一つは、「歴史性」を巡る『存在と時間』の議論を、行為者としての私たちが負っている歴史的な背景および文化的伝統に関する議論として解釈するというものである。このテーマに関しては、現在所属している研究機関で継続的に開催している「歴史的な生に関する研究会」の場でインプットとアウトプットを繰り返しつつ、研究を進めていく。そのさい、『存在と時間』の内在的な解釈だけでなく、年代的に前後するハイデガーの講義録、およびディルタイの著作を検討することが必要となるほか、政治哲学におけるリベラル=コミュニタリアン論争からも得るものであると考えている。この研究成果を含む論文を本年中に執筆し、投稿する予定である。 二つ目の課題は、「周囲世界分析」(『存在と時間』§15~18)を「行為者が世界に見出す価値」についての哲学的議論として合理的に解釈することである。この課題は、ハイデガーのアリストテレス解釈を辿ることによって果たされるほか、そうしたアリストテレスの議論に着想を得た現代の徳倫理学の知見、ならびに「理由への転回」を経た後のメタ倫理学の洞察を生かすことによって、より充実した仕方で解決されることが見込まれる。この研究成果は、今年度中に学会ならびに研究会の場で報告することを目指している。
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Research Products
(5 results)