2017 Fiscal Year Annual Research Report
含窒素芳香族化合物の不斉水素化反応による光学活性環状アミン類の効率的合成法の開発
Project/Area Number |
17J03449
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
東田 皓介 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 不斉水素化反応 / イリジウム / 含窒素芳香族 |
Outline of Annual Research Achievements |
キラルな環状アミン類は様々な生理活性物質中に広く含まれている基本骨格であり、その合成法は医薬品、香料、農薬等の合成化学的手法による安定供給を可能にすることから広く研究がなされている。その中で、含窒素芳香族化合物の不斉水素化反応は、原子効率に優れている点や工業的に利用可能な点からキラルな環状アミン類の最も効率的な合成法として知られており世界中でも広く研究されている。私は今までにイリジウム二核錯体を用いた含窒素芳香族化合物の一種であるイソキノリンの不斉水素化反応において基質をブレンステッド酸塩に誘導した後に反応に用いることで収率のみならずエナンチオ選択性が大きく向上することを見出しており、医薬品中に多く含まれる構成要素であるテトラヒドロイソキノリンの効果的な合成法を開発してきた。今年度は、ブレンステッド酸を用いた本手法を応用することで反応困難とされる含窒素芳香族化合物であるピラジンの不斉水素化反応に取り組んだ。この、ピラジンの不斉水素化反応では反応基質の低い塩基性度のために基質のブレンステッド酸塩を合成することができず、不斉水素化反応の手法が応用できないかに思われたが、系中に安価に入手できるアニリン塩酸塩を別途添加することで反応性が劇的に改善することを見出した。この発見は、私が今までに行ってきた含窒素芳香族化合物のブレンステッド酸を用いた不斉水素化反応において、基質を塩に誘導する反応ステップを省略できることを意味しており、そのことから、イソキノリンの不斉水素化反応がアニリン塩酸塩共存か非常に効率的に進行することも確認された。以上のように、私はキラルな環状アミン類の合成手法としてアトムエコノミーやステップエコノミーを意識した環境調和型の不斉反応に取り組んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イソキノリンの不斉水素化反応で得られるキラルなテトラヒドロイソキノリンは医薬品に含まれる重要骨格でありその合成法の重要性は高い。これまでにイソキノリンの塩酸塩を用いることで本不斉水素化反応が円滑に進行することが見出されているものの、多段階で合成されるイソキノリン類縁体を塩酸塩に誘導する段階が必要であり、反応による損失とステップエコノミーの観点から改善点を残している。今回私は安価で入手できかつ取り扱い容易なジメチルアニリン塩酸塩を系中に添加することでイソキノリンの不斉水素化反応がイソキノリンを塩に誘導せずに円滑に進行可能であることも見出した。また、従来のイソキノリン塩酸塩の不斉水素化反応ではイソキノリン塩酸塩の反応溶媒への低い溶解性から毒性の高いジオキサンとイソプロパノールの混合溶媒を必要としていたが、改良法は非塩のイソキノリンを使用することからバイオマス原料から合成可能であり持続可能な資源として注目されている2-メチルテトラヒドロフラン中で反応を進行させることが可能となった。 単環の含窒素芳香族化合物であるピラジンは芳香族安定化の寄与が大きく、また金属触媒を不活性化させる窒素原子を2つ含んでいるため最も不斉水素化反応が困難な基質と考えられている。今回私はピラジンの不斉水素化反応においてピラジンが有する窒素原子の隣接炭素上にトシルアミド基を導入することで還元反応が円滑に進行することを明らかとし、トシルアミド基と二つの置換基を有すピラジンの還元では完全なジアステレオ選択性で反応が進行することを明らかとした。本反応では系中にアニリン塩を添加することが鍵となっており、さらに本基質設計を応用することでイリジウム二核錯体を用いトシルアミド基を有するピリミジン、ピリダジン環の還元反応が進行することを見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに私は、含窒素芳香族化合物の不斉水素化反応において基質をブレンステッド酸に誘導することで収率とエナンチオ選択性が劇的に向上することを見出してきた。さらに、基質を塩に誘導しなくても、安価なアニリンの塩酸塩を系中に加えるだけで反応効率が可能であることを見出している。今後はアニリン塩酸塩が本反応の反応機構にどのような影響を及ぼしているのかについて検討する計画である。具体的には、各種分光学的手法によってアニリンが触媒であるイリジウム錯体とどのような相互作用を行っているのかを明らかとし、ブレンステッド酸がどのように系中で役割を持つのかも明らかとする。この反応機構解明をもとに、触媒が有する配位子や、反応条件に付いて再検討を行うことで、さらなる反応の効率化が可能になると確信している。また私は、今回不斉水素化反応に用いられているイリジウム二核錯体と同一の構造を有するロジウムに核錯体を合成単離することに成功しており、本触媒が炭素-炭素二重結合の還元に強力な活性を示すことを明らかとしている経緯があるため、こちらの触媒を利用した含窒素芳香族化合物の不斉水素化反応にも随時取り組む計画である。具体的には、すでにインドール類が有する五員環含窒素芳香族の不斉水素化反応の進行が確認されているため、より反応が困難とされているピロール類やイミダゾール類などの五員環化合物を用いた検討を進行させる計画である。この際に、生成物であるキラルなピロリジンは生理活性物質中に広く含まれる骨格であるために、生理活性物質の全合成を意識した置換基の導入や基質検討を行う。
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