2018 Fiscal Year Annual Research Report
くりこみ不動点の安定性解析による力学系の相転移の研究
Project/Area Number |
17J03495
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
篠田 万穂 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | エルゴード最適化 / 零温度極限問題 / 熱力学形式 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の研究テーマである力学系の相転移は,複数の平衡測度の存在を指す.特に,平衡測度を逆温度でパラメータ化し,温度を零に近づける際に現れる相転移に注目している.温度零の極限では,平衡測度は関数の空間平均を最大化することが知られており,そのような不変測度は最大化測度と呼ばれている.つまり,最大化測度を調べることで,相転移の手がかりを得ることができる.Bruin, Leplaideur らの考察による2つのくりこみ作用素[Comm. Math.Phys. 321, 209-247 (2013)]は,そのような事実に基づいて考察されており,当該年度も昨年度に引き続き,最大化測度に関する研究を重点的に行なった. 主な成果としては,区分的に拡大的な一次元力学系のLyapunov 最大化測度に関する成果をまとめた論文が,Ergodic Theory and Dynamical Systemsに受理された.さらに,相転移が起こらない,つまり平衡測度の一意性に関する結果も得ることができた.具体的には,(-β)-shift と呼ばれるカオス性の弱い力学系のクラスのfactorに対して,定数関数に対する平衡測度の一意性に関する結果を得た.これは山本謙一郎氏との共同研究であり,結果を論文にまとめ,Nonlinearityに投稿中である. 当該年度の研究実施計画通り,台湾で行われた国際研究集会での招待講演をはじめ,国内外の研究集会,セミナーで発表を行なった.また,Jean-Rene Chazottes 氏を訪問し,温度零の極限での平衡測度に関する振る舞いについて共同研究を行なった.温度零の極限で,平衡測度が収束するのかという基本的な問題を扱い,1次元の記号力学系とは異なる振る舞いが現れることを証明した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
くりこみ作用素に関する具体的な進展は得られなかったものの,それを考察する上で重要な最大化測度や零温度極限問題について研究が進展した.特に,零温度極限問題に関連する成果を出す過程で,記号力学系の部分空間への理解を深めたことは重要な収穫であった.最大化測度の研究に関しては,昨年度投稿した論文の内容を区分的に拡大的な一次元写像に対して応用し,査読つき国際誌への論文掲載が決定した.また,(-β)-シフトのfactor 上の定数関数に対する平衡測度の一意性に関する結果を論文にまとめ,投稿することができた.相転移とは逆の一意性に関する成果であるが,研究過程で習得したグラフを用いた記号力学系の表現は,今後の研究に生かされる可能性が高いと考えている.当該年度は,以上の得られた成果を国内だけでなく,国外の研究集会でも積極的に発表し,参加している研究者の方々と議論することができた.以上のことを踏まえて,総合的には概ね順調に進展していると判断した.
|
Strategy for Future Research Activity |
当該年度の研究を踏まえ,次年度も最大化測度,および零温度極限に関する研究を行いながら,くりこみ作用素の解析にも取り組んでいく.加えて,(-β)-シフトの研究成果をより一般化できる可能性があり,より広いクラスの記号力学系に対して,定数関数に対する平衡測度の一意性,またより一般の関数に対する平衡測度の一意性を研究する. くりこみ作用素に関しては,記号力学系の許可語と作用素の関係を詳しく見る必要があると考えている.くりこみ作用素の解析に密接に関係する,Thue-Mrose 力学系をはじめとした置換規則力学系をグラフで表現する方法があることを学んだ.その方法を利用して,置換規則力学系の許可語の情報がどのようにくりこみ作用素に用いられているかを調べる予定である. また,当該年度に引き続き次年度も,国内外の研究集会に参加,成果発表を行い,参加する研究者との意見交換を積極的にする予定である.
|