2017 Fiscal Year Annual Research Report
国連海洋法条約上の協力義務の具体化プロセス―海洋科学調査における協力義務を中心に
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17J03505
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
來田 真依子 神戸大学, 国際協力研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 国連海洋法条約 / 国連公海漁業実施協定 / IUU漁業寄港国措置協定 / 寄港国管轄権 / 乗船検査 / IUU漁業 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度においては、協力義務の具体化という観点から、国連海洋法条約(1982年)の下に位置づけられる国連公海漁業実施協定(1995年)を主な研究対象とした。特に、寄港国措置に関する第23条は、域外での外国船舶の漁獲行為につき、自国港内で乗船検査を行う寄港国の権利を第2項において認めている。しかしながら、それが条約上の権利なのか、それとも一般国際法上の権利なのかという点につき、交渉国の見解は一致せず、このため同条の解釈が国ごとに分かれるという状況が生じていた。 他方で、近年の先行研究においては、寄港国は乗船検査を一般的に実施することができるという理解のもと、寄港国管轄権が包括的に論じられている。しかしながら、1995年時点とは異なり、域外での外国船舶の漁獲活動について、今日では旗国による明示的な同意のない場合でも寄港国が乗船検査を行うことができるようになったのであれば、その根拠について理論的説明が為されなければならない。 この点につき、2009年11月に採択され、2016年6月に発効したIUU漁業寄港国措置協定は、締約国の船舶であるかどうかにかかわらず、寄港国が一般的に乗船検査を行いうることを認めているという点で、その論証に適している。本研究では、PSMAの起草過程のほか、関連するRFMOでの近年の議論状況を踏まえながら関連規定の検証を行い、PSMAが非締約国を含む旗国の受忍義務を前提に、寄港国が一方的に乗船検査を行うことを認めていることを明らかにした。これに加えて、日本や英国等における国内法の実施状況を検討し、今日において域外での漁獲行為に対する寄港国検査の権利はどのような法的根拠によって基礎づけられているといえるのか、実証的な説明を行うことを試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の出発点は、平成28年度の修士論文にある。ここでは、国連海洋法条約上の公海漁業に関する協力義務の機能を明らかにするため、寄港国措置のような条約の第3国の船舶に対してとられうる措置の規範的正当性を協力義務が担保しうるかどうかを検証することにあった。その点、国連公海漁業実施協定は、国連海洋法条約上の協力義務に基づき交渉・採択されている上、第23条で寄港国措置について定めており、さらに「協定の非締約国を船籍国とする船舶の公海上での漁獲行為について寄港国検査を行いうるか」という点につき、国家間で見解の対立がみられたことから、協力義務の具体化プロセスを検証するための題材として適していたと評価できる。 昨年度においては、まず上記の論点に関する先行研究を整理し、議論状況を正確に把握することに努めた。その結果、近年の学説では寄港国は乗船検査を一般的に実施することができると解されているが、その根拠について十分な理論的説明が為されておらず、論理的な飛躍のある中で寄港国管轄権が包括的に論じられているという問題点を発見できた。とりわけ近年盛んに議論されているIUU漁業規制との関係では、普遍的レベルでの法的根拠を示す必要のあることが明らかになったため、これを研究課題として設定した。 その成果に関しては、国内外の学術シンポジウムや研究会において中間報告を行っている。特に、2017年11月にフィンランドで開催されたPolar Law Symposiumでの口頭発表では、海洋法分野の専門家から指摘を受け、その内容を後の研究に反映することができた。また、2018年3月の京都国際法研究会においては、一般国際法の観点に基づき、多くの国際法研究者から有益な示唆を得られた。それらのフィードバックを反映した最終的な研究成果は、神戸大学大学院国際協力研究科の『国際協力論集』第26巻に公表することを予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度においては、外国船舶の域外行為に対する寄港国管轄権の発展過程において、国連海洋法条約における協力義務がどのように作用してきたのか、両者の概念的な結びつきを明らかにする。そのために、(1)沿岸国管轄権としての性格も併せ持つ寄港国管轄権が従来抑制的に行使されてきた背景的要因を明確化し、(2)近年「国際公益の保護主体」としての役割が寄港国に期待されるようになるまでの議論状況を整理し、(3)特に国連海洋法条約上の協力義務が内包する国際公益の保護という観念が、寄港国管轄権の発展にもたらした影響を分析する。 なお、昨年度の研究計画は、国連海洋法条約上の海洋科学調査における協力義務の具体化プロセスに焦点を当てるものであった。しかしながら、これまでの調査により、海洋科学調査に関する協力義務が具体化した例は北極科学協力協定(2017年)などに限られており、またクローズドな場で交渉されているために、法形成プロセスが不透明であることが判明した。反対に、国際社会で近年盛んに議論されている漁業分野は関連する実行が豊富に集積しており、また議論の中心が国連であることから、適切な資料に基づき分析を行うことが可能である。それゆえ、対応策として、今後研究を進めるにあたっては、漁業分野を中心に、国連海洋法条約における協力義務の具体化プロセスの解明を試みていく。
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Research Products
(3 results)