2018 Fiscal Year Annual Research Report
公教育におけるインクルージョン実践の多層性―障害児の学級参画を起点として
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17J03526
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 貴宣 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 教育社会学 / インクルーシブ教育 / 視覚障害 / 合理的配慮 / フィールドワーク / 加配教員 / ライフストーリーインタビュー / 支援の組織化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度も引き続き、全盲児が在籍する公立小学校の学級でのフィールドワークを継続している。障害児と健常児との同一学級処遇を志向する教師の包摂志向的な実践の分析を行ってきた。 とりわけ、今年度の調査では、通常学級における加配教員のあり方にフォーカスを当て、検討した。加配教員の配置は教育における合理的配慮のあり方としてその必要性は指摘されてきたものの、その実践的な機能についてはこれまでほとんど研究されてはこなかった。今回は二つの小学校でのフィールドワークに基づきこの点を考察してきた。 今回の調査から明確になったのは、加配教員の参加の形式次第で、教室における障害児のメンバーシップは曖昧かつ不安定なものとなり、学級へのその帰属も限定的なものとなりかねないということであった。すなわち、加配教員が障害児のみに強く志向し、自らの役割を障害児のケアに限定していく状況、言い換えるなら、障害児と加配教員とが一つのユニットとして通常学級へと組み込まれていくような上京が障害児の包摂を不確実なものとしていたことが明らかとなった。 今回はこのユニット化を積極的に推し進める加配教員の論理の解明にも取り組んだ。生活場面と授業場面、双方に目配りしつつ、"障害児への謝罪とお礼の慣習化"や"加配と担任との役割分担"といった具体的実践がどのような論理のもとで組織されていたのかを近畿地方のΒ市の小学校に勤務する加配教員へのインタビューに基づき明らかにした。 こうした作業を踏まえ、さらに、インクルーシブ教育の先進都市である近畿地方のα市の小学校でのフィールドワークから、障害児と加配とのユニット化の現象を回避し、障害児へと学級のメンバーシップを配分していく教師たちの実践についての分析を行った。そこから、加配と担任との連携の形式、担任や加配と障害児童を含めたクラス全体との関係を相互反英的に構築していくことの重要性を提起した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度も昨年度から引き続き、全盲児が在籍する公立小学校の学級でのフィールドワークを継続している。通常のクラスルームにおいて、障害児を巻き込みながら展開する日常的な相互作用や援助実践の過程や特徴を詳細かつ厳密に解明することを目的としている。そのため、障害学や教育社会学など関連諸領域の文献をレビューし、障害者に関わる教育現場の内実をとらえようとする経験的・帰納的研究の知見を精査してきた。それを踏まえた上で、実際の調査によって得られたデータを素材としながら、障害児と健常児との同一学級処遇を志向する教師の包摂志向的な実践の分析を行ってきた。 加えて、障害児の在籍する通常学級での教育実践に関する歴史資料の収集や教師へのライフストーリーインタビューなどの調査も順調に進めることができている。具体的には、これまでに公刊された視覚障害者の普通学校就学体験記や教師による教育実践記録の収集をほぼ終えることができた。また、障害児の普通学校就学に向けた運動に関与してきた諸団体の機関誌等、障害児のインクルーシブ教育に関連する各種資料を収集することができている。そのほか、視覚障害児の保護者や視覚障害当事者、学校教員などからなる当事者団体からの照会を通じて、かつての普通学校で視覚障害児を指導した経験をもつ教員や、普通学校での被教育体験を有する成人視覚障害者へのインタビューも適宜実施している。 現在、これらについての分析とそれに基づく学会報告ならびに論文作成の準備を行っているところである。こうした調査・研究により、障害児の就学に当たって以前に何がどのように問題とされ、いかにそれらが乗り越えられてきたのかが明らかになることだろう。その成果を前提とすることで、時間的に先行する実践との比較により、現在の障害児の在籍する公立学校での実践の特徴や課題も明らかにすることができるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においては、小学校でのフィールドワークを継続することにより、障害児を支援する仕組みを構築していく人々の実践を学校組織やそれを取り巻く社会環境との関連の中で分析する。その際、障害児を取り巻くそれぞれのアクターが日々のコミュニケーションを通じて、他のアクターとの間にネットワークを形成していく点に着目する。 学校内組織における相互作用についての研究においては、職員会議や個別の支援計画のためのケース会議での相互作用、そこで作成される文書記録にアプローチすることで、障害児に対する教師の認識枠組みや処遇の在り方などを明らかにし、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなど他専門職との分業関係を含め、校内の障害児支援の仕組みの構築や運用の仕方を解明していく。職員会議やケース会議での音声データならびにケース記録のテキストデータはすでにある程度収集し得ているので、今後は引き続き上記内容の調査を実施しつつ入手できたデータの分析を随時進めていく。 加えて、学校組織と外部アクターとの関係についての調査である。教材作成に関わる点訳ボランティアとの打ち合わせ場面や通級指導場面への参与観察により、あるいは保護者との間で交わされる連絡帳のドキュメント分析などにより、支援を組織化し、障害児の学校生活への参加を十全に保障するに当たって、外部アクターがどのような役割を果たしているのかについて検討する。全盲児の在籍する小学校に点訳教材を供給している点訳サークルのいくつかにインタビュー調査を打診し了承を得ることができている。現時点では3か所のサークルへの調査を行う予定である。また、連絡帳についてもそのコピーを二組入手出来ているので、今後これらの分析に取り掛かる。 以上の分析から、外部アクターとのネゴシエーションを通して、障害児の教育支援に必要となる外部資源を調達する学校組織の方略が明らかとなる。
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Research Products
(3 results)