2017 Fiscal Year Annual Research Report
組み合わせ範疇文法 (CCG) を用いた日本語発話形式処理システムの構築
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17J03552
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
井原 駿 大阪大学, 言語文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 形式意味論 / 様相論理 / 命令文 / 発話行為 / 語用論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,研究計画に従い,特に「命令」の発話行為に焦点を当て研究を進めた.日本語において典型的である命令形の命令文の他,命令形以外で表される形式の命令文にも焦点を当て,また他の言語との比較を行いつつ,各日本語命令文の意味がそれぞれの形式と対応しながら出力される仕組みについて検討した.また,命令形の命令文の分析に留まらず,命令文にまつわる諸言語現象に対する対処法に関しても検討した. まず,日本語における命令文一般において対照主題の「は」や談話助詞「だけ」が命令文において生起する際に,平叙文や疑問文のケースでは見られない特殊な含意が導出される問題について,本研究で採用する形式的アプローチのもと分析を行った.次に,これまでに形式的言語理論において分析がなされてこなかった「辞書形」の命令文の振る舞いについて,本研究の枠組みを用いて意味分析を行った.さらに,命令形と辞書形の他,「ように」を文末形式とする命令文を対象に加えた上で,これら3つの命令文の意味と振る舞いの差異に説明を与えた.一連の研究の結果,日本語命令文にまつわる諸現象や各命令文の意味の差異は,(i)「必要性」を表す様相演算子と (ii) 命令の発話行為演算子の有無によって説明が為されることを示した. 本年度は,命令文の他,新たに「勧誘」や「意志」の発話形式に関しても研究を推し進めた.「勧誘」や「意志」を表す「(し)よう」という活用形式は,基本的には命令形「ーろ」などと意味論的には変わらず,どちらも必然性を表す様相演算子を担っており,これら2つの形式の違いは要求する主語人称のみであることを提案した. 本年度の研究成果は,日本語命令文の意味記述をこれまでに注目されて来なかった諸側面から推し進めたのみならず,シンプルかつ精緻なモデルを用いてその意味・振る舞いの計算を可能にした点で,非常に重要であると言える.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は,当初の計画では分析を予定していなかった様々な命令形式(辞書系やヨウニ形)も考慮に入れた上で分析を推し進める事が出来た他,同様に分析対象に入れていなかった談話助詞と命令文のインタラクションに関しても,本研究のフレームワークによって捉えることを可能にした. また,当初は命令文の統語的・意味的側面の処理のみに焦点を当てる計画であったが,語用論的な側面(例えば文脈によって変わり得る命令文の発話効果など)も考慮に入れた上で一定の成果を得る事が出来た点は非常に意義があると言える. 以上の理由から,全体として計画以上に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,命令文と終助詞とのインタラクションや,文末のイントネーションを考慮に入れた上で,命令文の処理を可能にする言語理論の構築をより一層推し進める.特に,命令文における文末のイントネーションとその意味との対応関係については,管見の限り殆ど研究が為されておらず,記述のレベルから研究を推し進める必要がある. また,当初の計画通り,命令文を疑問文や平叙文のような他の主要な発話形式と出来る限り並行的に意味処理ができるよう,モデルの精緻化の手法を検討する.
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