2017 Fiscal Year Annual Research Report
地域医療福祉における音楽活動の実践と思想―支援関係と音楽表現の協働性に着目して―
Project/Area Number |
17J03611
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Research Institution | Jin-ai University |
Principal Investigator |
嶋田 久美 仁愛大学, 人間学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 地域医療福祉 / 音楽 / コミュニティ音楽療法 / 生態学 / 協働性 / 関係性 / 障害 / 労働 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、地域医療福祉に関わる音楽活動の特性を支援関係と音楽表現の協働性という観点から明らかにするものである。一年目である平成二九年度内に行った研究内容とその成果発表の状況は、以下の三点にまとめられる。 ①「コミュニティ音楽療法」(CoMT)における音楽観と支援関係の捉え方についての理論的考察、および関連する音楽活動についての実地調査:CoMT提唱者らの言説におけるコミュニティ概念や障害概念、生態学的視点の明確化、日本の事例として「神戸音遊びの会」の活動の背景にある思想の読解、および公演とワークショップへの参加と関係者へのインタビューに基づく考察を行った。 ②CoMTにおける包摂と排除をめぐる諸問題についての検討:2017年7月に開催された第15回世界音楽療法大会(於つくば国際会議場)において、音楽療法士の沼田里衣氏(大阪市立大学)と三宅博子氏(明治学院大学)との共同企画で、「コミュニティ音楽療法における包摂と排除:日本の事例を通して考える」と題するラウンドテーブルを開催した。そのなかで報告者は、「コミュニティ音楽療法からみる社会包摂と排除とは何か?:アイデンティティ・ポリティクスを超えて」と題する口頭発表を行い、音楽療法の実践を捉え直すための理論的視座を示した。なお、日本音楽療法学会からの依頼により、当該ラウンドテーブルでの成果についての報告文を寄稿した。 ③芸術活動を通した社会包摂と労働の関係性についての検討:上記②の課題を「労働」という観点にまで広げ、ひき続き沼田・三宅両氏との共同で、アートミーツケア学会2017年度大会(於京都市立芸術大学)において、アートと仕事の関係について考えるトークセッションを企画・開催した。地域作業所の専門家である鈴木励滋氏(地域作業所カプカプ)と池田真典氏(日本福祉大学)を交え、障害者の働き方について討論と意見交換を行い、理論的示唆を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、主に、90年代にヨーロッパにおいて提唱されてのち、今や国際的な発展をみせているCoMTの潮流をひも解きながら、病院や福祉施設での治療や支援活動において用いられている芸術活動の協働性の仕組みと課題を明らかにすべく研究をすすめた。その成果の一部は、国際学会での発表や学術論文の形ですでに発表済であり、一定の成果を得ることができたと考える。一方で、CoMTが拠り所としている概念的枠組みの妥当性と諸理論の相互連関の精査および論点の抽出に想定していた以上の時間を要したため、実地調査が国内に限られ、当初予定していた国外の調査が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記①・②に関しては、関連領域の近年の議論の系譜をひき続き丹念に追い、論点を地道に整理していく必要がある。とくに、CoMTを特徴づける鍵概念の一つであるエコロジーという用語については、その解釈の深度や実践との結びつきに実践者・研究者・領域ごとのばらつきや曖昧な点が多々見受けられることから、音楽学・音楽療法論・現代芸術論のみならず、社会福祉学、障害学、社会学、人類学など先行する関連領域の議論を参照しつつ、横断的なつながりを精査し明確化していくことが課題である。 ③に関しては、障害者の働き方と芸術的な活動の関連性について、近年のアクティベーション論、社会的企業論、個別就労支援プログラム(IPS)など諸外国の新たな就労支援モデルの動向も視野にいれつつ、調査および考察を進めていく予定である。
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Research Products
(4 results)