2017 Fiscal Year Annual Research Report
メダカ精巣における放射線誘発性精巣卵の形成メカニズムの解析
Project/Area Number |
17J03688
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永田 健斗 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | メダカ / 放射線 / p53遺伝子 / 精巣 / 精原細胞 / 精巣卵 |
Outline of Annual Research Achievements |
低線量放射線に慢性被ばくした際のp53変異精巣における精巣卵の誘導について検証するため、合計線量100 mGyの低線量ガンマ線 (線量率; 9.99 microGy /min) を7日間かけてp53変異メダカ成魚に照射した。放射線照射終了7日後の精巣組織中に精巣卵が誘導され、p53変異精巣においては低線量の慢性的な放射線被ばくによっても精原細胞の異常分化が生じることが示唆された。さらに500 mGyの低線量ガンマ線の分割照射1ヶ月後、p53変異精巣内に精巣卵が残存することを確認し、長期的に組織影響がもたらされることが示唆された。 一方で、放射線照射による精巣卵形成の分子メカニズムは不明のままである。本研究では、高線量ガンマ線 (合計線量5 Gy, 線量率7.5 Gy/min) を単回もしくは分割的に全身被ばくさせ、放射線照射終了後3日のp53変異成魚由来の精巣について、RNAシーケンスによるトランスクリプトーム解析を行った。その結果、放射線照射3日後のp53変異精巣では卵膜形成関連遺伝子群 (ZP遺伝子) の発現上昇を確認し、放射線被ばくによって初期の段階から雌性遺伝子が誘導されることが示唆された。また、精原細胞で生じる精巣卵への異常分化の分子機構解明のため、一細胞レベルでの遺伝子発現解析を細胞種別に行うことを試みた。本研究では、非照射のp53変異メダカ精巣を酵素処理によって分散し、パーコール法 (密度勾配遠心法) により精原細胞を多く含む分画を抽出する手法を確立させ、シングルセルRNAシーケンス解析した。精原細胞特異的遺伝子(PCNA, dmc1, dazl)や精母細胞特異的遺伝子(SYCP1, SYCP3)等に着目することで、各分化段階の遺伝子発現を一細胞レベルで評価できることが明らかとなった。今後、放射線照射した精原細胞について解析を行い、精巣卵誘導の詳細を検討したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題においては、マイクロビーム照射技術を利用し精原細胞から精巣卵が誘導されることや、低線量放射線照射施設を駆使し、精巣卵誘導に必要な線量を検討した。また、組織レベルでのRNAシーケンス解析の結果、放射線照射によってp53変異精巣においては雌性遺伝子の発現上昇が確認できた。より分子レベル・細胞レベルでの精巣卵誘導の評価を行うため、シングルセルRNAシーケンスの技術等を利用し、放射線被ばく後の精原細胞の異常分化機構の解明を目指してきた。しかし、本研究の課題においては非照射精巣のシングルセル解析のみにとどまり、放射線照射したp53変異精巣由来の精原細胞のシングルセル解析に取り組むことができなかった。本研究課題においては、おおむね順調に研究が進行したが、今後は放射線照射したメダカ精原細胞の解析を行うことで、p53変異精巣における精巣卵誘導の詳細な分子メカニズムが解明できることが予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、50 mGyの低線量ガンマ線がp53変異精巣に精巣卵を誘導し、非常に低い線量でも異常分化を生じさせることが明らかとなった。さらに500 mGyの低線量ガンマ線の分割照射1ヶ月後、p53変異精巣内に精巣卵が残存することを確認し、長期的に組織影響がもたらされることが示唆された。より詳細な検討をするため、慢性的な放射線照射後に長期的な飼育(放射線照射3ヶ月後)を行なったのち、p53変異メダカ精巣の組織状態を確認し精子形成が正常に進行することや、精巣卵の誘導程度を確認したい。また、p53変異精巣においてマイクロビーム照射によって被ばくした精原細胞のみが精巣卵に分化転換することが示唆された。そこで、これまでに確立させたシングルセルRNAシーケンス技術を用い、放射線照射したp53変異精巣の精原細胞および精巣卵の一細胞レベルでの遺伝子発現解析を行うことが必要である。放射線照射によって、p53変異精巣で雌性遺伝子の発現が組織レベルのRNAシーケンスで確認されたことから、これまでに得ている非照射精巣のシングルセルRNAシーケンスの結果と比較し、雌性遺伝子、DNA損傷修復関連遺伝子、酸化ストレス応答関連遺伝子等に着目し、精巣卵誘導に必須となる遺伝子を検討すべきである。さらに、この技術を用いることで、野生型メダカの各精子形成細胞の遺伝子発現の評価に応用できると考える。そこで、野生型メダカ精巣(Hd-rR系統)由来の精原細胞の一細胞レベルシーケンスを行い、正常な精子形成に必要な遺伝子発現について検討すべきである。
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