2017 Fiscal Year Annual Research Report
ゲノム編集法を用いたミツバチの社会性行動制御におけるmKastの機能解明
Project/Area Number |
17J03716
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
河野 大輝 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | セイヨウミツバチ / 社会性行動 / ゲノム編集 / キノコ体 / ケニヨン細胞 / mKast |
Outline of Annual Research Achievements |
社会性昆虫であるセイヨウミツバチは様々な社会性行動を示す。ミツバチの社会性行動の分子神経基盤を解明する目的で、脳高次中枢(キノコ体)においてサブタイプ選択的に発現する遺伝子が同定されているが、ミツバチにおける有効な遺伝子操作法の欠如から、実際にミツバチの行動を制御する分子神経基盤はほとんど不明である。本研究では、社会性行動を制御する候補遺伝子としてキノコ体において中間型ケニヨン細胞選択的に発現するmKastに着目し、これまでに確立してきたミツバチにおけるゲノム編集法の基礎技術を用いて機能解析を行う。本年度は、mKastを標的としたゲノム編集により変異雄蜂(F1)とヘテロ変異体働き蜂(F2)の作出に成功した。さらに、mKast変異雄蜂のimmunoblotとin situ hybridizationにより、変異雄蜂ではmKastタンパク質の発現が完全に消失しているにも関わらず、野生型雄蜂と似たケニヨン細胞のサブタイプが存在することを明らかにした。ミツバチにおいて遺伝子操作を行った先行研究では、遺伝子操作された雄蜂(F1)の作出までは行われていた。本研究では、性成熟した変異雄蜂由来の精子を用いて野生型女王蜂に人工授精を施し、初めてヘテロ変異体働き蜂(F2)の作出に成功した。また、先行研究では技術開発に主眼が置かれており、遺伝子操作個体で生理解析を行った例はなく、これも本研究が初めてである。ヘテロ変異体雌蜂幼虫を女王蜂へと分化させ、再度変異雄蜂精子と人工授精することでホモ変異体働き蜂を作出し、機能解析を行う予定である。また、mKastと相互作用するタンパク質を同定するため、mKast抗体を用いた共免疫沈降法を行い、コントロールと比較してmKast抗体でのみ検出されるバンドを複数同定した。今後は質量分析により相互作用タンパク質候補を同定する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ミツバチの社会性行動を制御する候補遺伝子として、キノコ体において中間型ケニヨン細胞選択的に発現するmKastに着目した。ゲノム編集法を用い、mKastの機能をシグナル伝達経路、神経回路、行動という多階層的な観点から明らかにし、社会性行動に必要な分子神経基盤の解明を目指す。中でもmKastノックアウト働き蜂の作出と行動解析は本研究の主眼であり、これを達成するには2回の人工授精によりF3世代を作出する必要がある。当初の予定では本年度中に達成する予定であったが、先例の少ないミツバチの室内飼育による問題などから、F2世代であるヘテロ変異体女王蜂の作出に留まっている。しかし、ホモ変異体働き蜂の作出に必要な工程が室内飼育で達成可能であることが示され、また少なくとも雄蜂ではmKastが発生に必須でないことから、ノックアウト働き蜂は発生途中で致死にならず、行動解析を実施できる可能性が高いことが示唆された。加えて本年度はmKastが制御するシグナル伝達経路の探索を行った。mKastが属するα-アレスチンファミリーは細胞分化に関わるNotch受容体を含む膜タンパク質の活性制御を担うことが知られているため、キノコ体のケニヨン細胞サブタイプの分化にmKastが関与する可能性が指摘されていた。しかし、変異雄蜂頭部を用いた解析により、mKast変異体でも野生型と同様のケニヨン細胞サブタイプが存在することが示唆された。そこで、mKastと相互作用するタンパク質を同定するためにmKast抗体を用いた共免疫沈降を行い、現在候補タンパク質の同定を試みている。以上より、研究初年度の達成度としては概ね順調であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
mKastが制御する社会性行動を同定するため、mKastホモ変異体働き蜂を作出し、行動解析を行う。ミツバチの行動解析系は多くの報告があるが、特に記憶学習、齢差分業、採餌能力に着目する。嗅覚・視覚連合学習、齢差分業の時期や分業による生理状態変化、視覚流動量測定能力やダンスコミュニケーションに異常が生じるか調べる予定である。また、共免疫沈降と質量分析によりmKastと相互作用するタンパク質候補を同定する。同定された候補タンパク質が実際にmKastと結合するかどうかを、mKastと候補遺伝子のリコンビナントタンパク質を発現させた培養細胞を用いて解析する。アレスチンファミリーの機能として、標的膜タンパク質を分解経路へリクルートすることが知られているため、ホモ変異体働き蜂の脳においてmKastによる相互作用タンパク質の下方制御が失われているかどうかを、変異体と野生型の脳タンパク質を用いた定量的プロテオミクス解析により調べる。さらに中間型ケニヨン細胞におけるmKastの機能や、mKast発現細胞の脳内投射パターンの同定を行うため、ミツバチにおいてゲノム編集法を応用したノックイン法の確立を試みる。
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Research Products
(7 results)