2017 Fiscal Year Annual Research Report
基準化切断値を用いたTPP加盟国グルーピングの環境経済的な妥当性評価
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17J03786
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
時任 翔平 九州大学, 経済学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 排出移転 / 産業連関表 / クラスター分析 / ネットワーク分析 / キーセクター分析 / 国際貿易 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該研究は、世界190地域の産業連関表データ(EORA)を単位構造モデルに適用することで、輸送機械産業の最終需要に付随するCO2排出に関するサプライチェーンネットワークグラフを作成し、これにスペクトラルクラスター分析、産業連関媒介中心性分析を用いて、CO2排出集約的かつ、影響力・感応度の大きいキーサプライチェーンを特定した。また主要な輸送機械産出国(日本、アメリカ、中国、フランス、ドイツ)についてそれぞれのキーサプライチェーンをネットワーク図として可視化し、各国の複雑なサプライチェーンの中での主要なチェーンにおける差異を明示的に示した。当該研究は、各国が自国の消費者ベース排出量を減らすためのキーセクター群の特定を、世界189カ国というグローバルなレベルで行えるように比較的シンプルな行列計算で算出できるような指標を組み合わせたことで、今後整備されていく巨大な産業連関ネットワークデータに対応した非常に有用な研究であると言える。 また、多地域間FTAによる貿易ブロック構造について、環境経済的分析を行うための新たな指標として「産業連関クラスター係数」を定義した。これはTPPなどの多地域間FTAメンバー国によるネットワークの集塊性(クラスター性)を測ることができ、どの環境負荷についてクラスター性が強くなるのか分析する。クラスター性が大きくなるほど、ネットワークが相対的に密になっているため、波及による排出削減の効果が大きい。当該研究では、産業連関ネットワーク分析における波及レイヤーを考慮することで、従来のネットワーク分析から産業連関のネットワーク分析への発展の研究に寄与するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究計画について、当初の予定であるTPPグループとNon-TPPグループとの分割による環境・経済的な妥当性の分析は、基準化切断値を用いるという当初の計画は手法の妥当性という問題について討論した結果棄却されたが、今現在TPP以外のグループについても包括的に考えることができ、かつ、産業連関分析について重要な波及構造をより詳細に見ることができる新たな指標を開発しており、当初の計画よりもより発展した研究を行っていると言える。また、当初の計画であった国際協力のフレームワークの策定についても、輸送機械をケーススタディに研究を行い、国内の学会で2度、国外の学会で1度発表を行っており、本成果を単著の英語論文『Environmentally-targeted sectors and linkages in the global supply-chain complexity of transport equipment』としてまとめた。この論文は環境経済学のリーディングジャーナルである査読付き英文誌のEcological Economics誌に掲載される。これらの理由より本研究は当初の計画以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、提案した産業連関のクラスター係数について実際に様々な排出係数を当てはめることで、各FTAがどの環境負荷に対して政策を実施すべきかを分析し、どのような政策を行うべきかについて考察を深めていく。また、時系列でも分析を行い、国際貿易のクラスター性がどのように変化してきたか分析する。当該研究の成果は英語論文としてまとめ、査読付き英文誌Economic Systems Research誌に投稿予定である。 また、CO2削減のための国際協力のフレームワークについても、より明確なガイドラインを設定するために新たな視点での研究を行う。具体的には、各国の消費者基準排出量に大きく寄与するような国際サプライチェーンを閾値を用いて抽出し、その構造について分析する。また、時系列でそのキーサプライチェーンを抽出し、構造変化分析に展開し、どのサプライチェーンが重要なのか、時系列でどのように変化してきたか、より詳細に分析することで、持続可能な経済発展について有意な提言を行う。
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