2018 Fiscal Year Annual Research Report
教育を介した社会的不平等の生成メカニズムに関する地域間比較
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17J03829
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
林川 友貴 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 社会的不平等 / 地域間比較 / 学歴の収益 / 教育社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、教育を介して社会不平等が生成される過程、すなわち(A)出身階層と教育達成の関連が生じる段階、(B)教育達成と到達階層の関連が生じる段階、の二つの段階における不平等生成メカニズムが地域により異なることを描き出す点に独自性がある。 前年度(計画一年目)はこの各段階を独立に捉えた研究を進め、地域社会の労働需要に対する感応性の高い教育機関である工業高等専門学校の分析や、2015年社会階層と社会移動全国調査(SSM調査)のデータによる学歴の職業的収益の時系列変動の解析を行ったが、本年度の具体的な研究の進展は、これら二つの段階の交互作用を想定した分析を行い、知見を得たところにある。親の学歴などの出身階層により本人の学歴の収益や大学への適応に差が生じうることを、SSM調査データや大学生を対象とした社会調査データから明らかにした。同じ「大卒」という学歴でも地域の違いや地域移動を伴うかどうかにより階層的背景や収益が異なり、その二つが絡み合って地域間の不平等を生み出していることに鑑みれば、研究計画の遂行上この枠組みは有用であると評価できる。 具体的な分析として、社会科学系の大学生調査データを用いて、「大卒」学歴を取得しても大学生活への適応や初職への移行の度合いが、親の学歴や出身地域によって影響を受けることを明らかにした。出身階層のなかでも、母親の学歴という変数が重要な役割を果たしていることを見出したことは、日本社会の性的役割分業の問題を考えても大きな成果であるといえる。これらの知見は2018年度の日本教育社会学会大会にて発表を行い、論文も執筆・投稿したが、健康上の問題による入院等で再査読対応中に途中断念せざるを得なかったため、次年度に改めて再投稿する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、(A)出身社会階層が教育達成に結び付くプロセス、(B)教育達成が到達階層(社会経済的地位)に結び付くプロセス、の両局面に着目して社会的不平等が生成されるメカニズムの地域間差異を明らかにすることにある。この区分に従い、現在の進捗状況に関する自己評価を記す。 まず、上記課題(A)については、現時点では当初の想定に比してやや進捗が遅れている。出身階層が家庭内の社会化や家庭を単位とした行動選択を通して教育達成に結び付くメカニズムの差異について、地域移動の影響を加味した統合的な分析枠組みの構築・適用を次年度は早急に進める必要がある。 一方で上記課題(B)、すなわち到達階層の学歴格差の生成メカニズムの分析については順調である。労働需要側の要因(スキル需要)と労働供給側の要因(コホート毎の学歴構成)と学歴・所得・認知的/非認知的スキルといった変数が同時的に分析可能な国際成人力調査(PIAAC)のデータを用い、スキル需要・実際のスキル水準と学歴の収益の関係がどのように変動していくのかを分析した。その結果、学歴の収益はスキル需要によって説明されているものの、それが実際のスキル水準に説明される割合は低いこと、そして学歴の収益のスキル需要感応性のありかたは性別や年代によっても異なってくることを明らかにすることができた。これらの分析結果は論文として次年度に投稿予定である。 さらに方法論上の進展も認められる。前年度に開発した社会学におけるオーディネーション手法傾向スコアによる分析法の統合手法を、2015年社会階層と社会移動全国調査のデータに適用し、推定されたパラメータにもとづく不平等生成メカニズムの地域類型の作成を進めた。階層や教育に関する変数間関連から析出されているこの区分を用いることで、従来区分に比して社会的不平等の生成メカニズムの地域間比較をより的確に捉える素地が完成した。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り、計画1-2年目においては、実証・方法論の両面で社会的不平等の生成メカニズムの地域間比較を捉える枠組みを一定程度構築することができた。ただし深刻な健康面の問題があり、その成果を対外的に発表する機会を十分に設けることはできなかった。ゆえに、計画最終年度となる2019年度は、(1)1-2年目の研究成果を多く査読付学術雑誌の投稿、を優先的に進めたうえで、(2)出身階層⇒到達階層の影響メカニズムの地域間比較の実証分析、を遂行し、その分析知見を到達階層の学歴格差の生成メカニズムの分析から得られた知見と統合することで、最終的に(3)博士論文の執筆、を行う。以上の三点が本年度の主要な課題となる。 以上が本年度の基本方針であるが、より詳細には二つの方向性がありうると考えている。一つは、当初の計画通りO(出身階層)-E(教育達成)-D(到達階層)のOEDトライアングルの連関構造のありかた(教育を介した社会的不平等の生じ方)の総合的な地域間比較を行っていくという方向性、 もう一つはED関連のみに焦点化した形、すなわち地域間で学歴の収益が異なるのはなぜかという問いを中心においた形で研究成果をまとめるという方向性である。PIAACデータの分析からも学歴の収益の決定因としての労働需要関係変数の重要性が示された通り、地域間の学歴の収益の差異を捉えるうえでは地域別労働市場のありかたの比較が不可欠となるが、本研究が計量分析により見出された変数間関連をなぞるだけの「変数社会学」に陥ることなくより社会科学に貢献しうるような理論を生み出すためには、各地域の労働市場や教育制度の形成過程を歴史的に探究する必要性も現状認識している。上記課題(2)の進捗や得られた知見によって、この二つの方針のいずれがより良いのかを早い段階で選択していく。
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Research Products
(1 results)