2018 Fiscal Year Annual Research Report
酸化・還元ストレスの時間的変動に基づいたがん悪性進展解明
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17J03942
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
日下部 大樹 九州大学, 大学院薬学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | フェロトーシス / 過酸化脂質 / リン脂質 / リゾリン脂質アシル転移酵素 / 非小細胞肺癌 / レドックス / 酸化還元状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
酸化・還元ストレスにより誘導される細胞死機序として“フェロトーシス”が提唱され、近年着目されている。さらに、フェロトーシスは薬剤耐性がん細胞株に対し特異的な細胞死を誘導することも報告されている。しかしながら、この酸化・還元ストレスによる細胞死機序は、未だ不明な点が多く、「細胞株間の感受性差の原因」と「細胞死の実行因子」に関して、統一的な見解が得られていない。そこで本年度は、新しい細胞死形態であるフェロトーシスに着目し、細胞間における細胞死機序の感受性差の解明を目的とした。 非小細胞肺癌の細胞株であるA549は、同じく非小細胞肺癌由来のCalu-1と比較して、フェロトーシス誘導剤であるRSL-3に対し約600倍耐性を示す。そこで、非小細胞肺癌の細胞株4株の比較検討より、感受性差の原因を解明することとした。フェロトーシスによる細胞死は、脂質過酸化反応が必須である。A549とCalu-1に関して、脂質過酸化反応の惹起とそれに関する因子はフェロトーシス感受性に影響を与えなかった。一方、脂質過酸化物の基質であるリン脂質の構成をLCMSにて測定したところ、その量比は細胞株間で異なっていた。そこで、このリン脂質構成を司るリゾリン脂質アシル転移酵素を検討したところ、その発現量はRSL-3感受性との相関することを見出した。以上より、フェロトーシスの感受性には、リン脂質構成およびその制御が重要であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では非小細胞肺癌細胞株を用いて、フェロトーシスへの感受性差におけるリン脂質構成の重要性を見出した。本研究では非小細胞肺癌4株の比較検討より、以下の内容を明らかにしている。①脂質過酸化反応の惹起に関与する因子であるGPX4(Glutathione Peroxidase 4)および15-LOX(15-Lipoxigenase)は、RSL-3感受性差に関わらずフェロトーシス誘導に必須の因子であった。②脂肪酸添加によるリン脂質構成の変動は、RSL-3に対する脆弱性および耐性を誘導した。リン脂質構成の制御を司るリゾリン脂質アシル転移酵素に関して、③脆弱性に関与した酵素の発現量はRSL-3感受性と相関しない。一方、④耐性に関与した酵素の発現量とRSL-3感受性は相関することを見出した。また、この相関性はCancer cell line encyclopediaデータベースにおいても確認され、耐性に関与するリゾリン脂質アシル転移酵素がRSL-3感受性を説明しうる可能性を見出した。これらの研究成果は計画通りの結果を示しており、経過は順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究ではリゾリン脂質アシル転移酵素のフェロトーシス感受性に寄与する可能性を見出した。フェロトーシス誘導過程における酸化還元状態の時空間的な解析に関して、統一的な見解は得られていない。フェロトーシスを誘導する過酸化脂質の発生場所および時間は、細胞死誘導機序を理解するために必要な情報である。そこで、来年度は本研究の目的である、がん細胞の酸化還元状態を利用した新規抗がん戦略の構築を目指し、細胞死機序のさらなる解明に取り組む予定である。そのために、当研究室の開発した脂質過酸化検出蛍光プローブを用い、脂質酸化物の発生場所や時間的変動の可視化を、さらに細胞死に重要な酸化物をLCMSにて検出を計画している。予備検討では、蛍光撮像による局所的な脂質過酸化物の可視化と、細胞死誘導時に発生する酸化脂質の検出に成功している。
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