2017 Fiscal Year Annual Research Report
大規模代謝反応ネットワークシステムの解析法の開発とその応用
Project/Area Number |
17J04007
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
桑門 温子 九州大学, 生物資源環境科学府, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
|
Keywords | 代謝反応ネットワーク / 感度解析 / BST / 求根法 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者はBSTを基礎理論とする大規模代謝ネットワーク解析法の確立を最終目標として、このようなシステムに対する解析法の開発と解析ソフトの作成、およびその応用に関する研究を行っている。これを踏まえ、大規模システムに対応できる解析手法の開発を目的として、以下の3つの課題に取り組んだ。 第1の課題では、大規模システムにおける代謝物濃度の定常状態値計算法の確立を行った。定常状態値を効率よく正確に求めることは、感度計算を行う上で重要である。また、大規模システムでは定常状態値を求根法により求めることが困難になる。そこで、Runge-Kutta法により仮の定常状態値に到達するまで微分方程式を解くことで求根法の初期値を求め、収束範囲が広い求根法であるS-system解法を導入することで定常状態値を得る方法を確立した。本手法によれば1500もの代謝物からなるモデルに対しても定常状態値が効率よく計算可能であることを明らかにした。 第2の課題では、第1の課題で確立した定常状態値計算法と、BSTのGMA-system型式に基づき感度計算を超高精度で行う方法のアルゴリズムを完成させ、これを現在開発中のiCOSMOSに組み込んだ。これにより、500以上の代謝物からなるモデルに対して個々の流束に対する定常状態感度を迅速に効率よく求めることが可能になった。 第3の課題では、iCOSMOSの感度解析から得られた代謝物濃度および個々の流束に対する感度値の大小をネットワーク図に色で示して考察する新たな方法を提案した。大規模システムになると、BSTで従来用いられてきた3次元図では代謝物および流束の相互作用を直感的に理解しにくい。一方、開発したネットワーク図では代謝反応の流れを図上で確認しながら相互関係を考察できる。さらに、これら2種類の図を合わせて用いれば、大規模システムの感度値の考察が容易になることを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
第1と第2の課題は予定していたものであり、計画通りの研究成果を得ることができた。第3の課題は研究の過程において新たに設定したものであり、想定していたよりも多くの成果を得ることができた。 第1の課題では、大規模代謝ネットワークにおける代謝物濃度の定常状態値計算法の確立を行った。確立した手法によれば、1500もの代謝物からなるモデルに対しても定常状態値が効率よく計算可能であることを明らかにした。この研究成果を国内外の学会において発表した。また、本研究の成果は海外誌に投稿すべく、現在査読中である。なお、S-system解法はあまり知られておらず、その有用性は明らかでないため、反応ネットワークモデルにおける本法の収束の特徴に関する研究も行い、本研究の成果を海外誌において発表した。 第2の課題では、第1の課題で確立した定常状態値計算法を導入した、BSTのGMA-system型式に基づき感度計算を超高精度で行うソフトウェアiCOSMOSの作成を行った。これにより、500以上の代謝物からなるモデルに対して個々の流束に対する定常状態感度を迅速に効率よく求めることが可能になった。この研究成果を国内外の学会において発表した。本課題については、引き続き検討を行う。 第3の課題では、iCOSMOSの感度解析から得られた代謝物濃度および個々の流束に対する感度値の大小をネットワーク図に示して考察する新たな方法を提案した。従来BSTの感度解析で用いられてきた3次元図と異なり、ネットワーク図によればネットワーク上での代謝物の流れを確認しながら相互関係を考察できる。目的を達成するため、フリーソフトウェアGraphvizの描画機能を利用し、iCOSMOSの感度値の計算結果からネットワーク図を描画するためのデータベース作成プログラムを作成した。この研究成果を国内外の学会および論文において発表した。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果に基づき、今後開発したソフトウェアと解析手法を、実際の代謝反応ネットワークシステムへ応用する。主に、以下の課題に取り組む。 まず、開発中の超高精度定常状態感度計算ソフトウェアiCOSMOSを完成するとともに、細胞内代謝反応ネットワークに適用し、定常状態感度解析を行う。利用するモデルには、シロイヌナズナの代謝反応ネットワークシステムを検討している。iCOSMOSから得られた感度値を3次元プロットすることで感度値の変化が顕著な酵素反応を探しだし、それに関連する感度値を用いてネットワーク図を描き、ネットワーク中の重要な相互作用を明らかにする。これにより、これまでに確立した一連の解析法の有用性を明らかにするとともに、シロイヌナズナの代謝反応ネットワークシステムのキャラクタリゼーションを行う。 つぎに、今回開発したネットワーク図を用いる感度解析法を、動的感度解析へ拡張する。動的感度解析ソフトウェアには当研究室で先に開発したSoftCADSがあり、本ソフトから得られる感度値からネットワーク図を描くことで、酵素濃度と代謝物濃度が変化する過程において重要となる相互作用を探すことが可能であるか検討を行う。 以上の研究内容に関して、論文を執筆するほか、研究成果を国内の学会において発表する。
|