2017 Fiscal Year Annual Research Report
パキスタンにおける「第三の性」の多様性とその変貌についての文化人類学的研究
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17J04037
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
劉 高力 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 第三の性 / 性的マイノリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は、パキスタンの都市、ラホールを中心に約一年にわたる長期フィールドワークと文献収集をおこなった。大都市における第三の性に関する調査については、ラホール歓楽街において第三の性あるいはトランスジェンダーと呼ばれる人々を中心に参与観察し、日々の活動を把握した。地方の伝統的な都市における第三の性に関する調査を通して、第三の性の伝統や政治と宗教とのかかわりを把握した。パキスタン有数の祭であるラル・シャバーズ・カランダールに参加し、第三の性の宗教的役割について調査した。同時に、パキスタンのLGBTのNGOでボランティアとしてNGOの人々と共に活動した。中国の東南アジア南アジア研究雑誌で論文一本を発表した。第三の性に関する人類学映像作品をセルビア国際民族誌映画祭で上映した。パキスタン現地でも上映し、当事者たちのコメントを聞いた。タイで開催されたアジア研究大会ICASとアメリカで開催されたAASで発表した。アウトリーチ活動については、南京市の市民に「平等な心で世界を理解しようとする好奇心」というテーマの講演を行った。元中国社会科学院研究員で日本文学研究者の許金龍氏と共に日本文化と南アジア研究について話をした。パキスタンの性少数派NGOで参与観察をしながら、性少数者の健康を守るというテーマの宣伝用映像Neglected Voicesを作成し、現地の健康治療に関する部局で上映した。国連開発計画と国連AIDSが計画した地域トランスジェンダー健康に関する会議に出席した。パキスタン代表の一人としてトランスジェンダーの事情を紹介し、その人権擁護を提案した。パキスタンのムルタンにある女子大学で中国語と東アジア文化について講義をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2017年度はほぼ海外での調査と国内外の会議での発表に費やしている。調査は修正を加えながらも順調に実施している。調査対象者としての第三の性とトランスジェンダーの人々の日常生活を把握することができた。大都市における第三の性と地方の伝統的な都市における第三の性を比較し、集団の全体的特徴が理解できた。特に、ムルタンでは第三の性にかんする貴重な古文書を閲覧することができた。この古文書は部外者には一般に公開されないものであるが、過去三年にわたる調査で信頼関係を構築できた結果、閲覧することができた。内容を解読した結果、第三の性の政治と宗教とのかかわりについての理解が深まった。
私自身の調査と第三の性の共同生活に基づいて作った映像はセルビア国際民族誌映画祭において唯一の日本映画として選出され、公開された。アメリカ・イリノイ大学のアジア教育データベースにも収録された。また2018年6月に弘前大学で開催される日本文化人類学会研究大会と2018年7月にブラジルで開催される国際人類学・民族学科学連合世界研究大会でも上映予定である。パキスタン現地での上映では、調査対象者のコメントを直接聞くことにより、彼ら自身に対する理解もよく理解することができた。研究発表については、11月に早稲田大学でおこなったインド―日本両国ゼミで発表した。このほか、特に査読が厳しいAAS(Association for Asian Studies)で個人発表ができた。以上より、当初の計画以上の進展を成し遂げたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度はボランティアとしてNGOの人々と一緒に活動した。第三の性は海外の寄付者を探したり、国内のLGBTたちとの新しい同盟結成の企画に携わった。そして、パキスタンの性的マイノリティ全体として世界的に活躍できるように努力している。たとえば、アムステルダムで開催された映画祭やバンコクにある世界トランクスジェンダー大会などに参加した。
第三の性と海外のLGBTとの連携活動が益々増加している。人権運動の代表として働く人も増えている。自分の権利を守るために第三の性はアイデンティティに関する思考を深めている。一方、第三の性は伝統的な生活に従い、LGBTを宗教違反と考えて嫌悪している。以上のことから、パキスタンでは第三の性が分裂しているということがわかる。これは、現代パキスタン社会における伝統ならびに宗教とグローバリゼーションとの矛盾とも理解できる。今後の調査でも、このような観点から考察を深めていきたい。2018年度は4月から5月にかけて引続き現地調査を行う。2017年度はNGOの人々と協力して信頼関係を築くことができた。2018年度の調査ではNGOから知遇をえたLGBTの個人を訪問し、ライフストーリーを聞く計画である。LGBTの多様性を精緻に記述することにより、第三の性と他のLGBTの関連や相違が理解できることが期待される。5月下旬に帰国後は、これまでのフィールドワークでえられた資料を整理し、博士論文を執筆する。さらに、これまでに精読した研究書や論文からの情報も活用し、研究成果を報告する。
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Research Products
(8 results)