2017 Fiscal Year Annual Research Report
多言語状況下の文学研究―スワヒリ語作家ユーフレイズ・ケジラハビを中心に―
Project/Area Number |
17J04049
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小野田 風子 大阪大学, 言語文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | スワヒリ語文学 / 作家研究 / 作品研究 / 実験小説 / 自由詩 / アフリカ諸語文学 / スワヒリ語 / タンザニア |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、タンザニアのスワヒリ語作家ユーフレイズ・ケジラハビ(Euphrase Kezilahabi)の作家研究の継続ならびに、タンザニアとボツワナでの現地調査を行った。以下に二つの研究実績の概要を記す。 ケジラハビの作家研究においては、現代スワヒリ語文学の作家が、西洋教育を受けたエリートである一方、出自民族への帰属意識を強く持っていることに着目し、彼が(1)英語世界と(2)民族語世界という現代タンザニア社会に共存する二つの世界にいかなる影響を受けつつ、(3)スワヒリ語で執筆することにより、自分が生きる社会とどのような関係を取り結ぼうとしているのかという三つの課題を軸に彼の全作品を分析し、その作家像を捉えることを目的とした。初年度は特に(1)英語世界との関わりと、(3)タンザニア社会との関わりという側面で成果を挙げることができた。まず(1)では、ケジラハビがスワヒリ語文学界に確立させた二つの新たな分野―実験小説と自由詩―に着目し、彼の作品の西洋哲学や西洋の文学理論からの影響を指摘しつつ、新たな解釈を発表した。(3)では、タンザニアの社会主義時代に書かれた初期作品において、作者の政治的姿勢が様々な方法で曖昧化されるという性質に着目し、その原因と背景を探ることで、スワヒリ語作家の国民国家形成への関与の在り方を提示した。 タンザニアでの現地調査では、読書経験や読書環境の把握と観察により、スワヒリ語文学が実際に読まれ、議論される場を把握することを目指し、一定の成果を得た。またボツワナでは、ケジラハビが教鞭を執るボツワナ大学にてインタビューを行う予定であったが、ケジラハビが急に入院してしまったため、同大学で教えるケジラハビの幼馴染の教授に対し、ケジラハビの作品執筆時の時代背景や作品の解釈などについてインタビューと議論を行い、有意義な結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ケジラハビの作家研究における(1)英語世界との関わりについての取り組みでは、ケジラハビの作品についての解釈の議論が展開される場であった国外の学術誌において、独自の新たな解釈を示した論文二本の掲載が実現した。また(3)タンザニア社会との関わりについての取り組みでは、その成果を一回の学会発表と国内の学術誌への二本の投稿論文に結実させることができた。さらに自由詩の先駆者とされるケジラハビと、スワヒリ語韻文文学の伝統や歴史との関係性を考察した研究では、学会発表一回と国内の学術誌への投稿論文にその成果を発表することができた タンザニアでの現地調査の成果については、所属するS科研の研究会における発表と、同ホームページへのフィールド便りの執筆において報告した。ボツワナでのケジラハビの幼馴染の教授とのインタビューについても、上記の(3)の取り組みで発表した論文においてその成果と意義を報告した。 以上のように、目的の達成に向けて多角的に研究に取り組み、成果を継続的に発表・報告することで着実な進展を得ている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2018年度は、ケジラハビの作家研究の完成を目指す。そのために、残された課題である(2)民族語世界との関係性についての研究に取り組む。特に出自民族への帰属意識が強く表れているケジラハビの初期の小説と詩を題材に、民族的背景が彼の作品に与える文学的効果について考察する。また、ケジラハビへのインタビューに再挑戦するため、時期を見計らい再度ボツワナ、あるいはタンザニアに赴く予定である。 研究成果については、すでに一回の国内での学会発表が決まっているが、それに加えて国際雑誌への論文投稿にも努める。また、後期にはこれまでの研究結果を総括し、その成果を世に問うことを企図している。
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Research Products
(9 results)