2017 Fiscal Year Annual Research Report
a descriptive study of Khitan grammar
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17J04094
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
大竹 昌巳 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 契丹語 / 契丹文字 / 契丹小字 / モンゴル諸語 / 音対応規則 / 子音推移 / 異形態 / アクセント |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である本年度は、研究課題の基礎となる契丹小字契丹語の復元作業を進めるとともに、研究課題についても着実に成果を積み重ねた。主な研究成果は以下の3点である。 第一に、異形態における使い分けの条件の解明である。契丹語の動詞活用語尾のうち過去・形動詞語尾と継起副動詞語尾、また動詞派生接尾辞のうち使役態・受動態派生接尾辞には各々2種類の異形態があるが、両者の使い分けについて検討したところ、祖語に存在した(共時的音韻レベルでは失われた)母音語幹か子音語幹かの違いによる使い分けであることが明らかとなった。本研究者はすでに、契丹語の名詞曲用語尾のうち与位格語尾と奪格語尾の2種類の異形態が同様の条件によって使い分けられていることを明らかにしており、そのデータによっても本仮説が支持される。 第二に、契丹語とモンゴル諸語との音対応規則の帰納という比較言語学的成果である。母音の対応規則についてはすでに国際誌に研究論文として発表済みだが、子音の対応について新たに検討したところ、契丹語では語中子音の大規模な弱化(子音推移)が生じたことが明らかとなった。この子音推移のために契丹語とモンゴル諸語との同源語は一見したところ「似て」おらず、このことが同源語の発見を困難にしていた。本研究によってその困難が取り除かれ、同源語の同定が容易になったことは、語義の解読、ひいてはテキストの読解を促進させる上で重要な意味をもつ。 第三に、契丹語ピッチアクセントの復元である。契丹語を漢字で音写した資料を検討したところ、その中に契丹語のピッチアクセントを反映したと考えられるものがあることを発見した。また、漢語を契丹小字で音写した資料の中に漢語声調のレジスターを表記しようとしたと考えられるものがあることも発見した。これらの資料から、契丹語のピッチアクセントが現代モンゴル語等のピッチアクセントと類似することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度に当初予定していた研究内容を消化しきることができなかったことがこの評価の理由である。 こうした結果になったのは、本研究課題を遂行する上で基礎となる契丹語の復元状況に関して、依然一考の余地のある部分があり、そうした研究に割く時間が多かったためである。 ただし、こうした研究状況の中でも、研究の中心課題の一つを確実に解決することができた。研究実績の概要に示したように、動詞語尾の異形態の使い分けに関する研究成果がそれである。先行研究はこの使い分けを語幹が他動詞であるか自動詞であるかという条件によって説明しようとしたが、あまりにも反例が多く、その一般化は成功していなかった。それに対して、かつての母音語幹か子音語幹かという条件は、データを十分に説明するだけでなく、同様の使い分けが名詞においても存在することによって裏付けられる。本研究によって初めて妥当な説明が提示されたのである。 こうした本年度の研究成果を考慮して、全体の進捗状況は「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度中に遂行できなかった研究内容については、来年度に繰り越して行なう。
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