2018 Fiscal Year Annual Research Report
ルイ=ルネ・デ・フォレ研究――新しいデ・フォレ像へ向けて
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17J04117
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
今関 奏子 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | ルイ=ルネ・デ・フォレ / 20世紀フランス文学 / フランス詩 / フランス小説 / インファンス / 子供 / イヴ・ボヌフォワ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は20世紀のフランスの作家、ルイ=ルネ・デ・フォレ(1916-2000)と言葉の複雑な関係性を、前期(小説)、中(詩)、後期(自伝的詩的散文)の作品分析を行いながら、明らかにすることを目的としている。特に、これまでデ・フォレ作品を論じるにあたって「インファンス」(話す前の子供)像に焦点があてられてきたが、本研究では「インファンス」に限らず、デ・フォレ作品のなかで描かれるより具体的な子供像を分析し、そこにあらわれる、作家と言葉、もしくは沈黙との関係性を探る。 本年度は昨年度に引き続き、デ・フォレにとって重要な詩作品である「海の鬼女たち」についての論を完成させ、早稲田大学紀要に発表(査読あり)した。これまでの仏語による既存の研究を参照しながらも、至高の充足状態とみなされる「インファンス」ではなく、そこから逸脱し、父の秩序の世界と母の無秩序の世界の間の緊張状態の中で揺れ動く「思春期の子供」の状態に注目し、この子供が示しているこの詩の言語の特異性を、作品を綿密に読解しながら、説得的な形で論じることができた。この研究成果により、作品中にあらわされる子供、もしくは親子関係が単なる表象ではなく、作家にとって、言葉との関係性を思考する要になっていることを確信し、子供像を通して、他の作家と比較し文学史に位置づけることの重要性が浮き彫りとなった。そのため、本年度後半は、デ・フォレとも近しく、重要な詩人であるイヴ・ボヌフォワの作品中の子供像との比較検討を行い、20世紀フランス文学史にデ・フォレを位置づける作業を行った。「プレザンス」に向かったボヌフォワを補助線として論じることで、デ・フォレが20世紀後半文学のひとつの分かれ道となっていたということを示すための準備作業を中心的に行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度も研究指導委託により、パリ七大学ドミニク・ラバテ教授指導のもと研究を行った。教授と博士論文の目次構成について話し合い、前半は前年度に引き続き、デ・フォレの作品の中でも特に難解で、重要と考えられる詩「海の鬼女たち」についての論を発展させ、「思春期」の子供像の意味づけ、さらにはこの思春期の特殊な様態が示す、デ・フォレと言葉との間の緊張関係を、作品読解に基づいて説得的に論じた。 このことにより、デ・フォレ作品における子供像の重要性を示すとともに、それが言葉と書き手の関係を思考する上で重要な役割を果たしていることを明らにすることができた。その上で、これまで明らかにしてきたデ・フォレ作品の子供像と、20世紀の重要な詩人であるイヴ・ボヌフォワの作品の子供像の比較検討の必要性を感じ、デ・フォレ作品を「虚無の言葉」としたモーリス・ブランショと、そこに他者の愛へと向かう可能性を見出したボヌフォワの間で、デ・フォレが20世紀後半のフランス文学史の分かれ目を示していたことを論じるための準備作業を行ってきた。ボヌフォワによるデ・フォレ論「私たちの時代のエクリチュール」を端緒とし、その中で論じられるボヌフォワによるデ・フォレ作品中の子供像、母子像の意味づけを詳細に確認した上で、言葉との関係性が母子関係に深く結びついていると考えていたボヌフォワ自身の作品中の子供、親子関係の表象を分析するため、ボヌフォワ作品と先行文献の読解を中心に行った。記号を使用する前の母子の幸福な充溢した関係についての見方や、作品中にあらわれる子供像の比較から、この二人の作家の言語、ひいては詩や文学そのものに対する態度の差異が明らかになりつつあり、来年度も引き続きこの研究を深めながらデ・フォレを20世紀文学史の中に位置づけることを目標としている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度発表した「海の鬼女たち」論において、既存の研究が示してきた「インファンス」に加えて、思春期の子供像に注目したことによって、デ・フォレの子供像の重要性がさらに浮き彫りになった。そのため、作家と言語の関係を思考する上で重要な役割を担うこの子供像をさらに掘り下げて研究していく必要性を感じ、これまでの文体に重心を置いた研究計画から多少変更し、引き続き子供像を通してデ・フォレと言葉の関係性について分析し、20世紀フランス文学史に位置づける作業を行っていく。来年度は、デ・フォレと同様に母子関係を言葉との関係性と重ね合わせて思考していたイヴ・ボヌフォワの作品に現れる子供像との比較検討を行い、それによってこの二人の書き手の言葉、ひいては文学に対する態度の違いを提示し、20世紀フランス文学の一つの分かれ目として提示するという作業を引き続き行い、発表することを目標としている。 それと並行し、最終年度である来年度は、これまでの研究で論じてきた、話す前の至高の存在としての子供、「インファンス」から逸脱してしまった「ずるい子供」、「思春期の子供」といったデ・フォレ作品に特有の子供像を、作品の変遷とともに整理、分析しながら、前・中・後期のそれぞれのデ・フォレ作品において、この子供像があらわしている書き手と言葉、そしてそれと対になる沈黙との複雑な関係性を、より俯瞰的な視点からまとめていく必要性があると考える。キャリア半ばに長い沈黙の期間を経たデ・フォレだが、なぜ最後まで書くことに執着したのか、言葉と沈黙との間の緊張関係にある子供の像を分析しながら、デ・フォレの作家としての在り方を明らかにしたい。
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Research Products
(1 results)