2017 Fiscal Year Annual Research Report
アフリカ大湖地域における多元的な歴史の生成と暴力に抗する共生社会に関する研究
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17J04126
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
近藤 有希子 同志社大学, グローバル・スタディーズ研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | ルワンダ / 虐殺 / 歴史 / 記憶 / 親密な関係性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ルワンダを中心としたアフリカ大湖地域を対象に、暴力的に創出される「国家の歴史」に対して、人びとの共約不可能な記憶が、それとの対処や折衝を繰り返しながら生起している様相をつぶさに記述することにある。そこから、その記憶を感知する者とのあいだに個別の歴史が生成し、地域社会のなかで対立関係になった人びとがともに生きるための、共生社会の実現にむけた構想を示していくことを目指す。 平成29年度は、2017年7月30日~9月7日にルワンダ共和国で現地調査を実施した。本調査では、1990年代前半の紛争や虐殺を経験していない若者世代の歴史認識と国家の影響を検討することを目的としていたため、まずは、①とくに農村部における若者の生活実態、②学校教育における歴史の授業内容、に焦点をあてて調査をおこなった。 ①ルワンダの農村部では、近年の人口増加と土地の細分化による相続地の減少とともに、多くの若者が都市部へ働きに出るようになっている。しかしその場合も、ルワンダでは就業機会がいまだかなり限定されているために、若者たちの雇用先のひとつとして、女性のあいだにおいてさえ軍隊が選び取られつつあることが明らかとなった。そしてこのような傾向は、ルワンダの国家が形成する「平和」のあり方とも密接に関係していることが示唆された。 ②ルワンダの歴史に関する授業は、おもに中等教育から開始される。その授業内容の詳細については現在分析中であるが、一部の大人世代からは、虐殺の前後で授業内容が大きく変化したことが指摘された。とくに前政権にかかわる内容はすべて否定的な記述になったこと、また現在の「国家の歴史」のなかでは「語られない死」の存在があることも言及された。 研究成果の一部は、すでに「国際ジェノサイド学会」などの学会の場で発表した。また、『スワヒリ&アフリカ研究』誌などに論文として掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ルワンダにおける現地調査は、当初の計画よりも短期間の滞在にはなったが、予定していた調査を遂行することができた。また現地滞在中に、研究開始時より調査対象としてきた一人の虐殺生存者のトゥチ女性の結婚式に参列することができたことは、今後の研究を進めるうえでも貴重な機会となった。彼女の婚出先は隣村のフトゥの男性である。結婚は村をあげて催され、彼女が地域社会のなかで孤立することなく生きている姿を確認することができた。婚出先の家族とこれからいかなる関係を築いていくのか、また過去の経験をどのように共有していくのかについては継続的な調査が必要であるが、彼女とその母親の凄惨な体験や記憶が、彼女たちの内だけで保持されるものではないことが、結婚の一連の手続きからは示唆された。 研究成果の公開に関しては、国内および国外で数件の口頭発表をおこなった。とくにオーストラリアで開催された「国際ジェノサイド学会」における口頭発表では、ナチスドイツやカンボジア、ブルンジなどの研究に従事する聴衆から多様な意見をいただき、大変有意義な時間を過ごすことができた。雑誌論文への投稿もおこない、本研究に関する成果の公表を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度には、再度、海外渡航をおこない現地調査に従事することで、前年度に集めた情報を補足するための資料の収集に努める。とくに平成29年度の現地調査の際には、家族のなかであっても、紛争時の経験についての語りやその共有が積極的にはおこなわれていない場合のあることが垣間見られたが、そのようなときに、個々の記憶がだれとともにどのように維持され、また継承されていくのかについて、重点的に調査をおこなっていく。
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