2017 Fiscal Year Annual Research Report
Adaptive significance of leaf trichome in Metrosideros polymorpha
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17J04193
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
甘田 岳 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | トライコーム / 適応的意義 / 適応放散 / ハワイフトモモ / 葉温 / 葉の濡れ / 被食防衛 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、進化のモデル樹木であるハワイフトモモの適応放散において、最重要形質の一つとして考えられる葉トライコーム(葉毛)の適応的意義の解明を目指して行った。葉トライコーム量は乾燥地や高標高地ほど多くなり、湿潤地では無毛個体も生息することから、葉トライコームは乾燥適応に貢献しているとこれまで考えられてきたが、どのような機能を介して適応放散に貢献しているのかは未解明である。本研究では、まず乾燥適応に関わる4つの機能候補:①熱放射反射、②保湿、③吸水、④被食防衛、についてそれぞれ評価を行い、最後に各機能の相対評価を行うことで、葉トライコームの適応的意義の全貌を解明し、ハワイフトモモの適応放散メカニズムの理解を目指す。 本年度は、当初の計画通り3か月間、調査地のハワイ島に滞在しフィールドワークを行った。調査内容は、当初の計画では①葉温と②③葉の濡れに関する調査・実験を予定していたが、それらに加え次年度行う予定としていた④被食防衛に関する調査・実験も同時に行った。特に、①に関しては、従来の仮説とは逆の「拡散抵抗増加をもたらす葉トライコームは、乾燥にむしろ不利であり、低温耐性に有効である可能性」という、新たな知見をも得ることができた。また、④に関しても種間相互作用と乾燥適応メカニズムを結びつけた独創的な仮説が支持される結果を得ることができた。②③に関しては、乾燥適応に有効である可能性が示唆されているものの、ガス交換や葉の水分特性への定量的な評価までは至れていない。しかしながら、これらの結果を組み合わせることで、葉トライコームという一つの形質でも、乾燥や低温などに対する様々な適応的意義を有することが示唆された。こうした知見を積み重ねることで、複雑な適応進化メカニズムの一端が明らかになりつつあると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、①葉温と②③葉の濡れに関する調査・実験を予定していたが、それらに加え次年度行う予定としていた④被食防衛に関する調査・実験も同時に行うことができた。これは、ハワイ島中のハワイフトモモの葉形質測定プロジェクトに同行し、虫こぶ害と葉トライコーム量の相関関係を定量できるだけの機会に恵まれたためである。4月には修士までの研究成果の一部を原著論文として公表することができただけでなく、①と④に関する研究成果は当初の予定よりも早く、原著論文としてまとめることができ、間もなく投稿予定である。学会発表に関しても、種生物学会と日本生態学会にて計画通り発表を行っただけでなく、国際ワークショップに参加するなど、積極的な研究成果発表を行うことができた。以下、各仮説に関する進捗状況である。 ①に関する研究は、従来仮説とは逆の乾燥に不利である可能性が示唆されたものの、新たな知見を得るに至り、当初の予定よりも早く原著論文としてまとめることが出来つつあり、間もなく投稿予定である。 ②③に関しては、葉トライコームによる葉の濡れ促進が示唆され、仮説の機能が有効である可能性を示すことができた。一方で、その促進効果がガス交換や葉の水分状況に与える影響の定量的評価までは至っていない。これは、手法開発に大変手間取ったことや、用いた薬品の性質的制約、また仮説④までも同時並行で行い十分に手が回らなかったことなど、が理由として挙げられる。しかし、いくつもの手法開発を済ませ、濡れが重要である結果を得ることができたので、進捗としては十分であると考えられる。 ④に関しては、次年度行う予定であった以上の調査・実験をすでに済ませることができた。内容としては、乾燥適応における被食防衛の有効性という独創的な結果を示すことができた。これらの結果は、当初の予定よりもとても早く原著論文としてまとまり、国際誌に投稿間近である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、機能評価によって形質の適応放散メカニズムの解明をめざし、形質の多様化の解釈を目指す。すなわち、各機能を様々な環境下で相対評価を行い、どの機能がどのような環境で有効となるのかを検証することで、顕著に多様化している葉トライコーム量の適応放散メカニズムの解釈を目指している。しかし、本年度は同時並行で複数の仮説に取り組んだため、現状では各機能仮説毎に所々検証不十分な点が散在し、相対評価が行える状況ではない。次年度は、これらの点を一つ一つ再検証しつつ、相対評価を行うための基盤形成を行っていく予定である。
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Research Products
(4 results)