2017 Fiscal Year Annual Research Report
近世ヴェネツィア・ゲットーにおける共同体の規定について
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17J04206
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
李 美奈 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | ユダヤ / 政教関係 / 近世 / イタリア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近世ヴェネツィアのユダヤ人共同体を対象に、ホスト社会からのユダヤ人に対する外発的規定が、 ユダヤ人自身の自己規定に与える影響について明らかにすることを目的とする。 夏にヴェネツィアとエルサレムへ渡航し、共同体記録、議会記録を収集した。滞在中にバルイラン大学D.マルキール教授、テルアビブ大学B.アーベル教授に面会し、研究方法についての助言を頂いた。また国際ユダヤ学会の発表を聴講し、研究動向について学び、広範囲の研究者との交流を持った。 帰国後、7 月までに精読していた資料に基づき、9 月の日本宗教学会の学術大会にて、「17 世紀 ヴェネツィアにおけるユダヤ宗教観 -シモーネ・ルッツァート Discorso から-」を発表した。この資料は 17 世紀 のヴェネツィアのラビ、S.ルッツァートがユダヤ教とユダヤ人の状況についてヴェネツィア社会に対して説明した著作である。本発表では、ルッツァートがユダヤ教を 2 つの側面、①自由な意思に基づいてユダヤ人の間で遵守される特殊な儀礼と、②あらゆる人間が積極的に守らねばならない道徳性に分けていることを示した。現在、同発表に基づき学術論文の執筆に取り掛かっている。 また、夏に収集した資料から、ユダヤ法の調査を行ったヴェネツィア共和国の役人の調査書を精読し、2018 年 1 月に東京大学宗教学研究室のゼミで「ミカンツィオ論文におけるユダヤ教とヴェネツィア法の共存」を報告した。この資料は、ユダヤ人共同体の規則を調査した役人が、共同体の自治性と国家裁判権との関係を論じたものであり、この中で役人ミカンツィオは、他の外国人集団が特殊な法を持てることを根拠にユダヤ法の存在を弁護し、他方でその法的権威についてはキリスト教兄弟団を参考に、認めうる範囲内にとどまることを示した。この思想がルッツァートのユダヤ教を説明する言説にも影響した可能性も指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の予定のうち、資料収集は予定以上に進展した。資料の精読・分析においては、夏までは予定通り宗教的指導者によるユダヤ人の自己規定を明らかにした。夏以降にその相対化のためのユダヤ人共同体におけるより世俗的な自己規定、さらに内部に向けた自己規定を明らかにする予定であったが、資料収集において前半期に読んだ資料に密接に関係のあるヴェネツィア当局の資料を見出したため、これを優先し、翌年度の予定であったヴェネツィア当局によるユダヤ人に対する規定との関係の問題に進むことにした。すなわち、本年度に予定していた問題を一部残しつつ、来年度に予定していた問題を一部明らかにしており、全体として概ね順調と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に引き続き、近世ヴェネツィアのユダヤ人共同体とヴェネツィア当局のユダヤ人政策に関する資料を収集し、それらの資料から本年度残した問題と来年度の予定の問題に取り組む。すなわち、①昨年度収集したユダヤ人共同体の内部規則集の精読・分析を行い、これを通して宗教的指導者以外の内部に対する自己規定について明らかにする、②引き続きヴェネツィア当局のユダヤ人政策の資料を収集・精読し、①への影響を見出す。また②については昨年度は、ユダヤ人の居住に肯定的であった役人の言説を対象としたが、これを相対化するために、ユダヤ人居住に反対していた人々のユダヤ人に対する規定の言説を分析する必要が生じた。資料収集においては、この点に留意しつつ行なっていきたい。
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Research Products
(1 results)