2017 Fiscal Year Annual Research Report
A Diachronic Study of Petitions: Change and Continuity in Dispute Settlement Procedures in Hellenistic and Roman Egypt
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17J04256
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
石田 真衣 名古屋大学, 人文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | ヘレニズム / プトレマイオス朝 / エジプト / 在地社会 / 嘆願 / 紛争処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、エジプトから出土した嘆願書を主史料とし、ヘレニズム・ローマ時代の在地社会における紛争処理の実態を考察することによって、エジプト社会の変容のプロセスを明らかにするものである。本年度は、研究計画に沿って、研究の土台となるパピルス史料の収集、データベースの作成・充実化を重点的におこない、あわせて在地社会における紛争処理機関としての官僚制組織と神殿組織の関係性について検討した。これらの研究成果は、以下の2点にまとめられる。 1.ヘレニズム期の嘆願書の基礎研究。約740点の嘆願書史料群を、年代、作成地、嘆願人、処理人、訴訟相手、紛争や問題の内容、嘆願者の要求の項目からなるデータベースを完成させた。これらの分析を踏まえ、嘆願書研究の新たな研究視角を指摘した論文「〈研究動向〉ヘレニズム期エジプトにおける嘆願書研究のいま―日常的交渉の記録から」(『歴史学研究』965号)を発表した。さらに、京都大学総合博物館セミナーにおいて、パピルス文書の活用のあり方とパピルス学研究の動向について口頭発表をおこなった。また、ローマ期にかけての変化を検証するため、ルーヴェン・カトリック大学にて、紀元前後1世紀の嘆願書および書簡史料の収集・調査をおこない、同大学の研究者たちと意見交換をおこなった。 2.在地勢力の再編プロセスの考察。嘆願書の包括的な分析を踏まえて、嘆願人と処理人の関係性、処理人同士の関係性を考察し、紛争処理をめぐる諸制度や社会関係の実態を読み解いた。それによって紛争処理の観点から、ヘレニズム期の官僚制組織と神殿組織の連携体制が構築されていく過程を明らかにした。その成果は、西洋古典学会での口頭発表および論文「プトレマイオス朝期エジプトにおける在地勢力の再編―嘆願書を手がかりに」(『西洋古典学研究』66号)として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画に沿って、本研究の基盤となる一次史料の収集とデータベースの作成を重点的におこなうことができた。また同時に、収集した史料と関連文献をもとに、嘆願書研究の動向を整理し、在地社会の変容プロセスの一端を考察した2編の論文を発表することができた。また、ルーヴェン・カトリック大学にて、一次・二次史料の収集はもとより、同大学の複数の研究者との貴重な意見交換をおこなえたことによって、今後の研究方針を固めることができた。ただし、海外調査の実施については、当初の予定よりやや遅れたため、滞在中に収集した史料群の分析は継続中である。したがって本研究はおおむね順調に進行しているものと判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、一次・二次史料の収集・精読をもとに、過渡期における嘆願と社会変容の関係について考察する。新たな取り組みとして、嘆願書だけでなく紛争処理に関連するパピルス書簡や碑文史料もあわせて分析する。そのような多角的なアプローチによって、在地社会における紛争処理をめぐるコミュニケーションのあり方を、より広い視野に立って検討することができる。また同時に、本年度に収集した神殿コミュニティに関連する文書群には、ギリシア語史料とエジプト語史料が含まれていることから、紀元前後の文化的・社会的変容について実証的に明らかにすることが見込まれる。 以上の研究方針にもとづき、考察の対象を広げるとともに、多言語史料を総合的に分析するため、引き続きルーヴェン・カトリック大学を主な拠点とし、史料を所蔵する諸研究機関において調査をおこなう予定である。これらの研究成果は、学会報告と論文投稿を通じて発表する。
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Research Products
(5 results)