2018 Fiscal Year Annual Research Report
意志概念の研究―自由意思liberumarbitriumの観点から
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17J04274
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村上 寛 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | キリスト教 / 神秘思想 / 自由意思 / 女性神秘家 / 異端思想 / 意志 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、アウグスティヌス、アンセルムス、カタリ派及び現代の自由意思に関する研究についてのフランス及びイギリスでの海外調査も含めた資料収集、研究をすすめつつ、マルグリット・ポレートの『単純な魂の鏡』に関する以下の二つの研究成果を発表した。 平成30年度科学研究費助成事業(科学研究費補助金)(研究成果公開促進費・課題番号:18HP5007)の支援を受け、12月に『鏡・意志・魂―ポレートと呼ばれるマルグリットとその思想』(晃洋書房)を発表した。同書ではポレートの意志概念について、キリスト教思想史及び現代的な観点からの意志概念研究という両面から検討することによって、西洋中世における民衆霊性の一つのあらわれであるその思想史的位置付け、その哲学的意義を示した。 3月には基盤研究(B)「古典教父研究の現代的意義―分裂から相生へ―」(研究課題/領域番号:17H02276)による論集Contribution of Women to Con-viviality--In/Ad Spiration to Convivialsに「Contribution of Women and Con-viviality indicated by Mary Magdalene in the Mirror of Simple Souls」を寄稿した。同論文では『鏡』においてマグダラのマリアを通して示される裸性(nudite)が意志論の文脈で捉えられていることを示した。 なお、他にもう一つの研究成果を投稿済みである。 また中世哲学会、西洋中世学会、日本宗教学会、Asia-Pacific Early Christian Studies Society (APECSS)他の大会に参加し、研究上の意見交換などを行った。また『二原理の書』についても順調にテキスト読解が進んでおり、次年度にまとまった成果を発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、1)意志概念理解から自由意思論を問い直すという一年目の研究の継続発展、2)カタリ派による『二原理の書』翻訳及び読解、3)マルグリット・ポレートにおける「遠くに在りて近きもの」における意志概念についての発展的研究、という三つの研究を平行して進めていく計画であった。 1)についてはフランス、イギリスでの調査旅行の成果もあり、順調に資料収集、調査及び研究が進んでいる。2)については、予定通りテキストの翻訳を終えることが出来た。3)については、論文として成果をまとめることが出来た。現在査読を受けており、次年度中に公表予定である。 また、以上のような研究計画の進捗に加えて、『鏡・意志・魂―ポレートと呼ばれるマルグリットとその思想』(晃洋書房)及び”Contribution of Women and Con-viviality indicated by Mary Magdalene in the Mirror of Simple Souls”を発表することが出来たことが、当初の計画以上に進展していると判断する理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
意志voluntas概念理解という観点から自由意思論を問い直すという本研究の継続発展として、非・被拘束性の自由としての自由意思において意志がどのような働きを担うと考えられているのかを解明する。その際、本年度は三つの領野を平行して研究することを想定している。 第一に、アウグスティヌス、ボエティウス、ベルナルドゥス、アンセルムスを中心とした思想史的流れの再検討である。第二に、11世紀から13世紀の大学を中心とした展開である。第三に、は11世紀以降の、大学外での、特に俗語における意志概念の研究である。三つの領野全てを同時にカバーし成果を発表することは困難であるため、三つ目の領野を中心とするが、あくまで平行して研究を進めつつ、相互に補い合いながら最終的にはそれらを有機的に結びつける見取り図を描くことを目指す。 具体的には、カタリ派による『二原理の書』について翻訳及び研究成果をまとめ、公表する。前年度までの研究成果を用いながら、自由意志が否定された人間観において、伝統的理解と異なる意志概念が同時代の中でどう位置付けられるのか、またその思想的源泉について調査し、どのような思想史的系譜が存在するのかを明らかにしていく。また、俗語における意志概念の研究についてはいわゆる女性神秘家と呼ばれる人々の著作を中心に、新プラトン主義からの影響の有無或いは新プラトン主義的特徴が意味するものについて研究する。 以上のような見通しと計画のもとに、意志の定義の妥当性や、善悪への志向性に関わる意志の性質、「悪としての意志」の思想史的解釈について展望を示すことを目指す。
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Research Products
(2 results)