2018 Fiscal Year Annual Research Report
家族の承認と周縁性―ネパールにおける共同体再編をめぐって
Project/Area Number |
17J04281
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤倉 康子 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 家族 / ジェンダー / カースト / 周縁性 / ネパール |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、歴史的に「売春カースト」とみなされてきたネパールのバディ・コミュニティにおける共同体再編を事例にとり、婚姻規範からの逸脱により究極に差異化、他者化されてきた人々が、国家における家族制度と多様性をめぐる政治の中で、どのように家族・親族ネットワークを形成し、夫婦・親子関係の社会的承認を求めていったのかを調査し、記述・分析することを目的としている。具体的には、以下の三つの問題系を、文献調査とフィールドワークによって調査する。 (1)ネパールにおける家族制度とカースト規定 (2)親族ネットワークを基盤とする移動における結婚と売春 (3)夫婦・親子関係の承認 本研究の2年目にあたる平成30年度は、ネパール、インドにおけるフィールドワークの継続と単著刊行のための準備に重点をおいた。1960年代から1980年代、西ネパールの山間部サリヤン郡から移動し、南部平野地帯のダン郡、バルディヤ郡で集落を形成した後、さらに国境の街ネパールガンジ、インドのムンバイに移住した2つの親族ネットワークの移動パターンを調査し、個人の家族形成の語りを集めた。1960年代から1980年代の移動と家族形成に関する調査のため、ネパールのバルディヤ郡、バンケ郡でフィールドワークを行った。3世代の男女の個人の語りを収集し、新居住地における仕事、結婚、子育ての体験を記録した。ネパール平野部の集落からインドへの移動と家族形成に関する調査のため、インドのムンバイでフィールドワークを行い、スラム地区での居住地形成、生活状況を記録し、個人の語りの収集を行った。国連ユニセフのカトマンドゥ事務局およびFEDO (Feminist Dalit Organization)で、人身取引、国境を越える移動における子どもの安全、カーストとジェンダーの複合差別に関する資料を収集した。調査の結果をまとめ、単著の刊行準備をした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目の調査結果に基づき、現在進行しているムンバイ近郊への移動と1960年代にネパール山間部で多くの人々が土地・家・仕事を失った時期に起こった出来事との関連性についての証言を詳細に記録することができた。ムンバイ近郊で、バディ居住地の形成過程と親族ネットワークの移動パターンを調査したが、特に1年目に訪問したバルディヤ郡の親族ネットワーク出身者が、どのような状況で移動を決断し家族を維持、変容させていったのかを明らかにすることができ、フィールドワークは大幅に進展した。 単著刊行のための準備が進んだものの、学会での発表は日程の問題で予定通り行うことができなかったが、3年目の前半に日本文化人類学会研究大会、Annual Kathmandu Conference on Nepal and Himalaya、日本南アジア学会全国大会での発表を予定している。また、単著の一部として準備した投稿論文を早期に完成させる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の3年目は、1990年代以降の、夫婦・親子関係の承認をめぐる実態調査を行い、日常生活における新たな関係性の認識、実践についての個人の語りを収集する。また、これまでの研究結果をもとに、より体系的な文献、資料分析を行い、単著の刊行をめざす。 ネパールのバンケ郡でフィールドワークを行い、夫婦・親子関係の承認に関する調査をする。出生登録、市民権証取得のために役所で手続きを行った母子の事例を調査し、「夫」「父親」に関する個人の語りを収集する。ダン郡でフィールドワークを行い、婚外の継続的な家族関係に関する調査をする。 成果公表としては、日本文化人類学会研究大会、Annual Kathmandu Conference on Nepal and Himalaya、日本南アジア学会全国大会で発表する。論文を『文化人類学会』に投稿し、単著の出版準備をする。
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