2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J04312
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
村上 克尚 青山学院大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 動物表象 / 戦後文学 / 傷つきやすさ / 暴力 |
Outline of Annual Research Achievements |
採択1年目である2017年度は、これまでの研究の総括を行ない、今後の研究の基礎を作る作業を行なった。 まず、これまでの研究の総括として、9月に『動物の声、他者の声 日本戦後文学の倫理』を刊行した。これは、博士論文をもとに、武田泰淳・大江健三郎・小島信夫という三名の戦後男性作家の文学における動物の表象について論じたものである。本書の分析は、「戦後女性作家の文学における動物の表象の研究」という本課題の前提となるものであり、かつ有効な比較対象となるものである。本書刊行後は、多くの書評会・研究会を開いていただき、今後に活かすべき有効な視座を得た。さらに、3月に、本書の革新性が評価され、「平成29年度(第68回)芸術選奨評論等部門 文部科学大臣新人賞」を受賞したことは、本課題を推進するにあたって大きなはずみとなった。 また、5月に、口頭発表「なぜイーヨーは足に語りかけるのか? ――『新しい人よ眼ざめよ』「無垢の歌、経験の歌」を中心に」を行なった。これは、大江健三郎の『新しい人よ眼ざめよ』(1983年)における障害を持った息子を、前期作品の動物の主題からの発展形として捉えたうえで、暴力を乗り越える可能性として「傷つきやすさ」の主題が登場していることを論じたものである。12月には、論文「波及する戦争 目取真俊『眼の奥の森』を読むために」を発表した。これは、目取真俊『眼の奥の森』(2009年)における主人公の分裂する声に注目したうえで、男性性に基づいた抵抗とは別に、「傷つきやすさ」を媒体とした連帯の可能性が描き出されていることを論じたものである。両作品から共通して析出された「傷つきやすさ」という文学的主題は、今後戦後女性作家の研究を進めるにあたっても、重要な視座となることが予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『動物の声、他者の声』の刊行および受賞により、文学における動物表象の分析というテーマの重要性を広く認知してもらえたことは大きな成果だった。また、古典文学、日本思想、フランス文学・哲学、英米文学(エコクリティシズム)など、様々な分野からの応答をいただき、今後どのような方向で、動物表象の分析を進めていけば良いのかが明確になってきたことも重要な進展だったと言える。 「戦後女性作家の文学における動物の表象の分析」という本課題については、1年目ということもあり、論文業績というかたちにはなっていないものの、各作家の著作、関連記事、先行研究などの収集、整理は順調に進んでおり、次年度以降に向けた基礎準備が確実に整っている。この点をもって、おおむね順調に進展しているものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度前半は、津島佑子を中心とし、研究成果の発表を行なっていく。すでに、2018年10月に上海の復旦大学で開かれる「東アジアと同時代日本語文学フォーラム」において、古典文学の研究者を含むメンバーと動物と亡霊をめぐるパネル発表を行なうことが決定しており、その場では津島の『黙市』を用いて、津島文学と動物の表象との必然的な繋がりについて発表する予定である。 2018年度後半は、金井美恵子の初期作品を中心に取り上げ、「動物と人間の相互の脱領土化」(芳川泰久)の実態について、時代状況とも関係させながら、明瞭に言語化し、成果を発表できるように努めたい。
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Research Products
(3 results)