2017 Fiscal Year Annual Research Report
ムササビの食文化の地域性:葉の成分と採餌行動の関連性
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17J04373
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
伊藤 睦実 首都大学東京, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 小型哺乳類 / 餌選択 / 葉食 / 糖分 / 総フェノール類 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、ムササビが棲息している東京都八王子市にある調査区内に生育しているコナラ属全種について、葉の化学成分分析を行い、樹種による葉の成分の違いがムササビの餌選択や採餌行動に及ぼす影響について重点的に検討した。調査区内には、落葉樹5種と、常緑樹7種のコナラ属の樹木が生育している。これらの樹木の葉を採取し、葉に含まれるブドウ糖濃度、総フェノール濃度、水分濃度を測定した。測定は、6月(夏季)と2月(冬季)の2回行った。また、調査区内で毎木調査を行い、胸高断面積を測定して、樹種ごとの胸高断面積の積算値からムササビが利用できる餌量を推定した。この結果と、これまで定期的に行ってきたムササビの食性調査の結果から、樹種の選択性を評価し、葉の化学成分分析の結果と照らし合わせて、ムササビの餌選択に関わる要因について検討した。 その結果として、夏季には、コナラ属の樹木の葉では、ブドウ糖濃度と総フェノール濃度の間には正の相関があることが明らかになったが、冬季(常緑樹のみ)には、その傾向は認められなかった。落葉樹と常緑樹の比較では、ブドウ糖濃度が平均的に落葉樹で高く、常緑樹で低くなっていた。とくに、ムササビが夏季に好んで採食するクヌギの葉は、コナラ属の中で最もブドウ糖濃度が高いことが明らかになった。このように、ムササビは、ブドウ糖濃度の高い葉を好んで食べると考えられたが、平均的にブドウ糖濃度が低い常緑樹しか利用できない冬季には、その傾向は認められなかった。つまり、ムササビは、落葉樹と常緑樹のどちらも利用できる夏季には、ブドウ糖濃度の高い樹種の葉を採食し、常緑樹しか利用できない冬季には、その他の要因によって食べる葉を選択している可能性があると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
予定していたコナラ属の葉の成分分析はおおむね計画通り実施することができ、その研究成果に関するポスター発表を国際哺乳類会議で行った。また、日本全国のムササビの採食行動を比較するための予備調査を開始した。すでに大分県と静岡県の2カ所で1年間にわたる食痕調査のデータが集積し、コナラ属の樹種の構成の違いが彼らの葉の食べ方(選択性や葉の中央部のみを食べるかどうかなど)に影響を与えているという予備的成果が得られつつある。一方、コナラ属の各樹種に対する草食昆虫の群集構造も違うことが明らかになって来て,草食昆虫群集に対する葉の防衛機構(例えば総フェノール濃度の増加)の違いが,間接的にムササビの葉の選択的採食に関係するのではないかという仮説についても,実証的研究を行えそうである。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の問題点としては以下の3点がある。(1)まだ成分分析を行っていないコナラ属の樹種が数種あるので(ナラガシワ、ハナガガシなど)、これらの成分分析を今後行い、日本産コナラ属全体の葉の化学成分の樹種間での傾向およびムササビの餌選択や採餌行動への関与の程度を検討する必要がある。(2)これまで測定した葉のブドウ糖、総フェノール、水の3つの成分に対して、ムササビの餌の食べ方として予想されるような行動(糖分や水分の高いものを好み、総フェノールの多いものを避ける)を示すかという直接的検証が行われていない。(3)ムササビの食文化の地域性を検討するために、コナラ属の種組成が大きく異なる調査区を日本各地に設置して、各調査区におけるムササビの食性調査とコナラ属の種組成の関係を検討する必要がある。 (1)については2年目の課題であるが、日本産コナラ属全種に関する葉の成分測定は比較的容易に完結できると考えられる。(2)については、(3)の結果と合わせて進めて行く予定である。すでに大分県、山口県、愛媛県、福井県、山梨県、山形県においてムササビの調査区選定に関する予備調査を行ったが、このうち調査地として良好であった大分県佐伯市と静岡県伊豆市の2か所の山林で、各調査区に調査ルートを設け、そのルート沿いにムササビの食痕(葉や種子など)の収集をおよそ月に1度の割合で行っている。現時点では、ムササビの食痕として、大分県佐伯市の調査地では、コナラ、ヤマモモ、アラカシなどの葉、ヤブツバキの花、イロハモミジの種子などが、静岡県伊豆市の調査地では、アカガシの葉や芽などが得られている。この2カ所においては、今後も定期的な食痕採取を継続し、彼らの採餌行動の地域性が利用できる樹種の葉の化学成分と関連があるのかどうか検証したい。さらに、新たな調査区の選定も並行して行い、できるだけ多くの地点の比較を行う予定である。
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Research Products
(2 results)