2018 Fiscal Year Annual Research Report
ムササビの食文化の地域性:葉の成分と採餌行動の関連性
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17J04373
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
伊藤 睦実 首都大学東京, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 小型哺乳類 / 餌選択 / 葉食 / 糖分 / 総フェノール類 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、ブナ科の樹種組成が大きく異なる地域に生息するムササビの食性を調べ、ブナ科の葉の化学成分分析の結果と合わせて、樹種による葉の成分の違いがムササビの餌選択や採餌行動の地域性に及ぼす影響について重点的に検討した。日本産ブナ科全種の成分分析の結果として、コナラ属及びマテバシイ属においては全体的に総フェノール濃度および糖濃度は落葉樹で高く、常緑樹で低くなっていた。クリ属とシイ属の樹種では、総フェノール濃度も糖濃度も比較的高くなっていた。ブナ属では総フェノール濃度も糖濃度も比較的低くなっていた。また、昨年度から引き続き、ムササビの食文化の地域性を検討するために、ブナ科の樹種組成が大きく異なる調査区を日本各地に設定し、各地域でのムササビの食性の調査も重点的に行った。定期的な食痕採取は今後も継続して行い、これまでに得られた葉の成分分析の結果と照らし合わせてさらに考察を進めていく予定である。 さらに、樹木の葉を食べる哺乳類の餌選択と採食行動について世界中の117の論文を引用して英語の総説論文を発表した。その中で、餌選択には「どの樹種の葉を食べるか」、「同種のどの木の葉を食べるか」、「同じ木のどの葉を食べるか」、「1枚の葉のどの部位を食べるか」の4つを区別して考察する必要があることを強調し、過去の研究事例を葉の化学成分ごとに再整理した。また、過去の研究は熱帯の常緑樹林での事例が多く、季節性のある温帯林や雨季と乾季の明瞭な地域での研究事例が今後必要であることも強調した。特に混交林では、樹木の葉食哺乳類にとって、利用できる餌環境が劇的に変化するため、それに対応した適応性が認められるはずである。葉の化学成分も季節変化するが、そうした葉の質的変化に関する研究もほとんどなされておらず、今後の重要な課題の一つであることを指摘した。ムササビの餌選択に関する研究は、その点において重要な知見を提供する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで行ってきた日本産コナラ属全種の葉の化学成分(総フェノール濃度および糖濃度)の比較を、さらに日本産ブナ科全体に広げるべく、ブナ属、マテバシイ属、クリ属、シイ属についての葉の成分分析を行った。その結果、ブナ科全体で、葉の総フェノール濃度と糖濃度を比較すると、系統的変化と生態的変化の両方が含まれていることが明らかとなり、ムササビが生息する調査地ごとの利用可能な樹種の組み合わせが彼らの餌選択に大きな影響を与えるのではないかと予想された。そのため、コナラ属だけでなくブナ科全体の樹種の組み合わせが異なる調査地を新たに2箇所設置し、そこでの食痕調査を開始した。 また、ムササビは葉を食べるときに葉を2回折りたたんで、中央部のみを食べることが多いことはすでに論文として発表済みであるが、今年度、葉の形に応じて先端近くに穴をあける場合、中央部に穴をあける場合、基部近くに穴を開ける場合があることがわかった。これについて。葉の構造的特徴から穴をあける部位の説明が可能であると思われ新たな研究の進展が期待される。 野外調査、化学分析、データのまとめ、論文作成のいずれに対しても精力的に取り組み、期待以上の成果と研究の進展があったと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の問題点および次年度の計画をまとめると、 (1) ブナ科の樹種組成が異なる地域に生息するムササビの餌の選択性を評価するために、各地域において毎木調査による餌量の推定を行う、(2)これまで測定した葉のブドウ糖、総フェノール、水分の3つの成分に対して、ムササビが予想されるような行動(糖分や水分の高いものを好み、総フェノールの多いものを避ける)を示すかという直接的検証を行う、という2点が挙げられる。(2)は(1)の結果と合わせて進めていく予定である。これら2点とこれまでの結果を合わせて、樹木の葉に含まれる成分がブナ科の樹種におけるムササビの餌の選択性にどのような影響を及ぼすかについて検討し、まとめていきたい。
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Research Products
(3 results)