2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J04395
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永野 中行 東京大学, 数理科学研究科, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | 保型形式 / K3曲面 / 類体の構成 / 周期写像 / GKZ超幾何微分方程式 / トーリック多様体 / Lame微分方程式 / スペクトル代数曲線 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究1年度目の目標は、トーリック多様体の超曲面として得られるK3曲面の周期写像による代数体の類体の構成法を与えることと、Lameの方程式のもつ数論的な性質を明らかにすることであった。以下のように研究成果を得た。 トーリック多様体の超曲面として得られるK3曲面は格子偏極K3曲面の構造を持つ。その周期写像はあるIV型のHermite対称領域を値域とする正則写像で、その挙動はGKZ超幾何微分方程式で統制される。本研究者は頂点数が4,5となる3次元反射的多面体が定めるトーリックK3超曲面を考察し、その周期写像をGKZ超幾何方程式から詳しく研究した。その結果、いくつかの非自明な場合に、逆周期写像の特殊値がIV型対称領域上のCM点においてCM体の類体を生成することを証明した。これは楕円曲線の周期写像による類体の構成(Kronecker の青春の夢)の自然な拡張である。特に、これらのトーリックK3超曲面の中には、逆周期写像が判別式最小の2変数Hilbertモジュラー関数を与える場合が含まれる。このHilbertモジュラー関数を調べることはそれ自体数論的な意義がある。 この場合に周期写像を用いた志村曲線・志村多様体の構成を完成させた。 次に、Lameの微分方程式は楕円曲線の上で定義されている微分方程式で、可積分系の理論で非自明な例を与えて続けてきた微分方程式である。しかし、本研究者の知る限り、Lameの方程式を整数論や楕円モジュラー形式の観点から調べる研究は今まで必ずしも活発に行われてこなかった。そこで本計画において、まずはLameの方程式と保型形式との自然な関係を理解することを目指した。そのために、シンプレクティック群の作用で不変な微分作用素(これはLameの微分作用素を含む)の可換環のクラスを考え、これが定めるスペクトル代数曲線が保型形式環の上に自然に定義されることを示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究者は、当該年度に主に2つの研究成果を得た。1つ目はトーリックK3超曲面の周期写像とGKZ超幾何方程式の整数論的性質の研究であり、非自明な場合においてK3曲面の周期写像を用いた類体の構成を行った。2つ目はある微分作用素のクラスと保型形式の関係であり、これによってLameの方程式が定めるスペクトル代数曲線と保型形式との間の自然な関係が明らかになった。以上の結果により、本研究計画の1年目の目標は達成された。これらの結果は、論文として公表・受理され、また国内外の研究集会において口頭発表された。同時に、Journees Arithmetiquesなどの大規模な国際研究集会に参加して、最先端の研究の動向について情報収集を行なった。 また、当該年度において、本研究者はK3曲面を用いた新しい保型形式の構成を試みた。まず、受入研究室における研究プロジェクトとして、特異点の半普遍変形が与えるK3曲面の周期を用いた保型形式の構成を目指した研究を行った。また、Univ. Sheffield (英国)を訪問し、現地のLanglands プログラムの専門家との間で研究情報を交換し、K3曲面の周期を用いてBianchi モジュラー形式を明示的に構成する研究計画を進展させることができた。 以上の理由により、本研究計画は当該年度において期待通り進展したといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度の結果を受けて、K3曲面の周期による保型形式の構成をさらに追及したい。 本研究者は、K3曲面を用いて更に一般の保型形式を得ることを目標にしている。現在、特異点の半普遍変形から得られる保型形式の構成を試みている。例外型孤立特異点でモダリティが1であるものの半普遍変形のうち重み正の部分はK3曲面の族を与え、特異点の変形理論や、K3曲面のミラー対称性の理論において非常に重要な役割を果たしている。このK3曲面の逆周期写像が多変数保型形式となることが強く予想される。この保型形式環の構造を決定することを目標に研究を進めたい。 また、実3次元双曲空間にはBianchi モジュラー群という群が離散的に作用することが知られている。このBianchiモジュラー群の作用に対してある種の普遍性を持つ調和関数のことをBianchi モジュラー形式という。Bianchi モジュラー・カスプ形式はLanglandsプログラムにおいて重要な役割を果たすとされ、現在欧米数論研究者の間でBianchi モジュラー形式は非常に活発に研究されている。ただし、Bianchiモジュラー形式は実変数についての保型形式であるために、通常の複素変数のモジュラー形式よりもはるかに取り扱いが難しい。したがって、Bianchi モジュラー・カスプ形式を楕円モジュラー・カスプ形式のように明示的に表示するのは高度に非自明な問題である。本研究者は、Bianchiモジュラー形式の研究が盛んな英国に約2週間研究出張を行い、この分野の有力な専門家の一人として知られるH.Sengun 氏(英国・Univ. Sheffield)と、K3曲面の周期を応用したBianchi モジュラー形式の構成の可能性を検討した。次年度以降もこの構成の可能性を追求したい。
|
Research Products
(13 results)