2017 Fiscal Year Annual Research Report
A synthetic search for the philosophy of Descartes seen through the principle of causality - around the concept of "God or nature"
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17J04467
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 真人 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | デカルト / 方法 / 認識論 / 比例 / 類比 / アナロギア / 中項 / 自然・本性 |
Outline of Annual Research Achievements |
『方法序説』までのデカルトは、主に認識論的な観点から一般的な真理発見法の研鑽に努めたが、『省察』以降の形而上学の深化に伴い、徐々に存在論的な観点へ考察の軸を移していく。このような変遷がデカルトの自然・本性概念の思想にいかなる影響を及ぼしたかを検証するため、若きデカルトが数学研究で培った認識方法が、後期デカルトの哲学体系から見ていかなる意義を持ち、とりわけ自然学と形而上学の探究でどのように応用された可能性があるのか、その一連の表れをまず探った。 次に、デカルトの認識論で重要な鍵の一つとなっていた中項または中間の概念に着目し、この概念がデカルト宇宙論の形成においてどのような役割を担っていたかを検討した。神の本性から演繹した法則を根拠にしたデカルト自然学が、アリストテレスの自然学をどう覆し、原理と現象の折り合いをいかにつけようとしたのか、その独自な点を、デカルト自然学で複雑に機能する微細物質の分析を通して明らかにした。 また、デカルトの自然学や形而上学での真理の認識方法の淵源の可能性を、ラムスの弁証法とルルス以来の結合術・記憶術の流れとの共通点に探った。デカルトが数学研究に基づいて発展させた認識方法は、ギリシャ以来の比例概念に則った伝統的な手法であり、その点でラムスやルルスと共通しているが、これをあくまで数学的な観点から離れずに発展させた点で、デカルトは前二者とは異なる。また、この方法は自然学と形而上学でも類比による認識方法として改変されて生き残っている点を検証するため、デカルトと同様、幾何学を根拠にして宇宙論を発展させたケプラーと対比した。幾何学による宇宙の構造を説いたケプラーとは異なり、数学的方法がそのままでは適用できない自然学において、類比による理解を主張したデカルトは、同じ方法を同様に数学的方法が適用できない形而上学においても有効な方法として使っている点を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『方法序説』以降の自然学と形而上学におけるデカルトの自然・本性概念の現われを検討するために、まず『規則論』までの認識方法が自然学と形而上学では適用されたのかどうか、どのように姿を変えて使われることになったのかを分析した。自然と神の認識のために、デカルトは類比(アナロギア)を用いているが、これは数学を源とした比例(アナロギア)によって事物の関係を把握する方法を、事物の比例関係をそのままでは把握することができない自然学や形而上学での認識に応用するため、デカルトが独自に発展させたものであることを、プラトン・アリストテレス・エウクレイデス・ラムス等における伝統的な比例概念と対比して明らかにした。これによって、自然学と形而上学の双方に共通する認識方法を、伝統に根ざしつつもデカルトが独自に改良・発展させたことが示され、「神あるいは自然」という自然学と形而上学にまたがる多義的な概念を考察するための準備が整ったことになる。 なお、デカルト研究者として著名なブルゴーニュ大学のゲナンシア教授が2017年10月に来日した際、本研究の概略を説明して意見を伺い、類似研究が世界的に見ても少ないことによる本研究の意義と方向性について、教授から賛同と激励の言葉を頂いた。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のような、デカルトが自然学と形而上学の研究のために発展させた類比による認識方法が、実際の研究でどのように使用され、また、そのような認識方法を用いたデカルトの自然学と形而上学が、伝統的な学問に比していかなる意味で独自だったのかを今年度は解明する。自然学においては、アリストテレスやケプラーの宇宙論との対比のもとで、デカルト宇宙論における渦動説と光論の独自性を運動論や力概念の現われを通じて浮き彫りにし、伝統的な自然学に抗して、デカルトが自らの体系の樹立によって何を覆そうとし、何を主張しようとしたのかについて検証する。 次に、形而上学においては、『方法序説』の出版後にその不十分さを痛感した神の存在証明を進めるため、デカルトがとった論証の方法と内容について考察する。エウクレイデス以来の数学の方法に倣い、デカルトは論証するために根拠の提示を重視したが、それは主に三つに区分される。第一に認識一般の根拠である真理の本有性、第二に物象の根拠である自然法則と神の本性、第三に形而上学の根拠である「永遠真理創造説」であるが、これら三つの根拠は相互に密接に関連し、分離不可となっている。これらの原因はすべて創造者たる神に収斂され、それぞれが神の本性を表すものであるが、そのままでは把握不可能な存在である神は、その本性を人間が認識できるような様式で精神に刻み込んでいる。先の三つの根拠はしたがって、すべて人間が真理を把握するための「人間的な諸根拠」(1638年2月22日付ヴァティエ宛書簡)であり、化体というような宗教的な事項をも説明しうる、デカルト哲学にとって論証の基礎を提供するものであり、さらに「原因または根拠」(『第二答弁』)である神の本性の探究へと歩を進めるために必要な予備的作業であることを明らかにする予定である。
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Research Products
(7 results)