2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17J04493
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
三原 さやか 慶應義塾大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 医学史 / 新生児医療 / 死亡率 / 罹病率 / 健康調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該の研究課題は医学史研究であり、20世紀前半の日本社会における新生児医療の特徴を国際的な文脈の中に位置づけることを目的としている。一次史料として、1938年に東京郊外で実施された「滝野川区健康調査」を主に用いる。研究課題の初年度は、(1)理論的検討のための文献調査を進めつつ、(2)統計分析に用いるデータベースの構築作業を完了し、(3)量的解析を行った。 (1)文献調査:医学史の専門図書館であるWellcome Library(英国)にて、新生児・乳幼児医療の社会史に関する英文資料調査を実施した。低年齢児の疾病の歴史学は、乳児死亡率の研究が特に充実しているが、死亡に至らずに治癒した病いについても知見の蓄積が必要である。本研究では、死亡率だけでなく罹病率に着目する先行研究の流れを踏まえ、昭和戦前期の日本の新生児の罹病と加療の状況を、乳幼児やその他の年齢階層との比較のなかで特徴付ける作業を行った。 (2)データベース構築:一次史料としての「滝野川区健康調査」から、新生児(1か月未満児)と乳幼児(5歳未満児)の疾病の詳細情報や医師治療の内容を網羅的に抽出し、当該史料に関する既存のデータベースに補足して入力する作業を行った。 (3)統計分析:一次史料中の疾病情報を年齢と医療費に着目して分析すると、調査対象世帯の新生児・乳幼児は医療費の手厚い分配を受けており、疾病の多くが治癒していた実態が明らかになった。新生児期の罹病率と死亡率は確かに高値だったが、新生児期を脱した乳幼児については、罹病に占める死亡の割合は他の年齢と比較して有意差を認めなかった。医師の治療は市販薬等の代替治療手段と比較すると高額だったが、新生児・乳幼児では医師利用率が高かった。乳児死亡率の高値が強調されがちな昭和戦前期の日本に関して、新生児・乳幼児の病いが積極的に加療され回復していたことを実証した点が本研究の新規性である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H29年度の前期は、9月末締切の米国医学史学会(American Association for the History of Medicine)2018年度年次総会に投稿して採択されることを目標に、データベースの構築作業と基礎的な統計分析を行った。作業は順調に進展し、当該の国際会議に採択され(会議は2018年5月ロサンゼルス)、前期の目標は達成された。 H29年度の後期は、理論的検討のため、海外図書館での集中的な文献調査を行った。これによって議論の枠組みの整理と統計分析の精緻化が可能となり、追加の分析作業を進めるとともに、英語論文の執筆に着手した。以上の状況から、現在までの進捗はおおむね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
H30年度の前半は、7月末を目途に海外の査読付き英文誌に投稿することを第一の目標とする。これにあたり、前年度に完了した統計分析に加え、他の一次史料を補足的に活用した質的分析(治療選択の社会的背景の検討、都市部と無医村の比較検討など)を追加する。投稿論文の執筆の過程で、5月の国際学会(米国医学史学会)と6月の国内研究会における英語発表の成果を反映させる予定である。 H30年度の後半は、上記の英語論文のリバイス作業を必要に応じて行う。また、当該研究課題を日本語にて再構成し、慶應義塾大学社会学研究科に今年度中に提出予定の博士論文の後半の2章とする予定である。
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Research Products
(3 results)