2017 Fiscal Year Annual Research Report
中央アジアにおけるカザフ民族音楽文化の越境的な形成と実践に関する人類学的研究
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17J04497
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
八木 風輝 総合研究大学院大学, 文化科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | モンゴル国のカザフ人 / カザフスタン / 音楽文化の越境 / 音楽教育 / 改良楽器 / 音楽アーカイブス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、モンゴル国バヤンウルギー県において、ローカルなカザフ音楽文化の形成過程と現代の実践を、カザフスタンからのカザフ音楽文化の越境に焦点を当てて明らかにすることを目的とする。バヤンウルギー県は、モンゴル国内でもカザフ人が人口の9割を占める県である。そのため、社会主義期から現代にかけて、カザフスタンと強い結びつきを持ち、現地の音楽実践においても、楽器や楽曲がカザフスタンから持ち込まれてきた形跡が見える。そこで、モンゴル国バヤンウルギー県にある文化機関への参与観察と、公文書館や音楽アーカイブスでの資料調査、カザフスタンでの聞き取り調査を通して、その実態を明らかにする。本研究の意義として、民俗的な記述が中心であった現地の音楽を、複数の国家の関与を視野に入れて明らかにできることがあげられる。 本年度は、カザフスタンへの1か月間及びモンゴル国への5か月間の調査を行った。カザフスタンでは、社会主義期にモンゴル国で活動していた演奏者らへの聞き取り調査を行った。モンゴル国では、現地の劇場などの文化機関に参与すると同時に、演奏者への楽器の教育に関して聞き取り調査を行った。 これらの調査から明らかになったのは、社会主義期にカザフスタンで制作された改良楽器は、1950年代末にモンゴル国バヤンウルギー県の劇場に持ち込まれた。一方で、モンゴル国の高等教育において、カザフの改良楽器を学ぶ場所がなかったため、バヤンウルギー県の劇場が現地のカザフ人を「実習生」として雇用し、カザフスタンの改良楽器を劇場内で学ばせてきた。この内容に関する論文を、2018年3月に発表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度行った、カザフ音楽の越境に関するモンゴル国とカザフスタンへの調査は、以下の2点から順調に進展したと考えられる。1点目は、音楽文化の越境に関して、モンゴル国での長期の参与観察と両国の演奏者への聞き取りから、音楽文化の越境と具体的な楽器の教育と関連づけて論文発表ができた点である。 2点目は、モンゴル国での調査中に、現地の音楽アーカイブスへの立ち入りを許可され、音源の収集と分析を行う環境が整った点である。それによって、社会主義期のカザフ音楽文化に関する具体的な越境の内容を、公文書館やライフヒストリーとは異なる視点から明らかにできる可能性が生まれたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、モンゴル国への4か月間超の調査と、カザフスタンへの1か月の調査を通じて、昨年度までに明らかにした音楽文化の越境に関して、より具体的な人々や組織の活動に焦点を当てて明らかにしたい。 本年度予定している調査は、モンゴル国にある音楽アーカイブスへの参与とそれに関連する聞き取りを中心にしている。そのアーカイブスには、磁気テープで音源が保存されており、現在、当機関の長の許可を得て、音源のデジタル化(mp3音源化)の活動に参与している。その参与と同時に、収録されている楽曲の具体的な分析を行う予定である。またこの音源アーカイブスに関する公文書類を参考にして、アーカイブスがどのような社会的位置づけを持っていたかを調査する。これにより、社会主義期のカザフ音楽文化の形成に関する具体的な状況が明らかになると考えられる。
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