2017 Fiscal Year Annual Research Report
福島における震災経験と生活構造に関するコミュニケーション社会学的研究
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17J04548
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
庄子 諒 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 原子力災害 / コミュニケーション / 福島第一原発事故 / 東日本大震災 / 笑い / ユーモア / 災害研究 / 質的調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、異なる立場を持つ多様な生活者によって構成されている原発事故後の福島の生活構造において、その対立構造のなかでなぜ人びとは福島で生活し続けることができるのかを、他者とのコミュニケーションによって日常生活が動態的に維持されている過程に着目することを通して、明らかにすることを目的としている。 平成29年度は、日常生活において震災経験がいかに解釈され、日常的な知識に転化されているのか、という研究課題に基づいて、福島県福島市を中心にフィールドワークを継続的に実施し、実証的研究を進めることができた。 まず、原発事故後の福島における共同の困難性をめぐっては、放射能汚染への意識の違いだけでなく、賠償をめぐる線引きと格差から生じる不公平感によって、住民間の分断が構造的につくりだされているといえる。そして、原発災害という経験が、被災者にとって一様ではなく、生活者の視点から多様に解釈されうることが明らかになった。 また、原発事故後の福島におけるコミュニケーションをめぐっては、とくにユーモアの実践に着目し、住民間のコミュニケーション分断の問題に対してユーモアを用いたコミュニケーションがもつ可能性/不可能性が明らかになった。大きく立ちはだかるユーモアの困難性という不可能性、すなわち笑えなさのなかで、ユーモアの実践は多くの限界を抱えている。しかし、そのなかでも、たとえば混乱した状況下での一時的な癒しの笑いや、緊張関係の緩和を試みる自虐の笑い、異なる立場の人びとに共有されうる共感の笑いなどを生むユーモアの実践が確認された。それらが、分断における他者への不安、沈黙、語りがたさを少なからず緩和し、コミュニケーションの回路を開く契機となる可能性を検討した。 加えて、経験社会学的な理論研究や、震災経験をめぐる事例研究を中心に、先行研究の整理および検討を並行して進め、研究課題および方法論の精緻化を図ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現地調査については、福島県福島市を中心とした中通り地方におけるフィールドワークを定期的に継続できており、本研究に欠かせない通時的な分析のためのデータを収集することができた。具体的には、調査対象地域の現状把握のための聞き取り調査と資料収集、調査協力関係の構築、催事への参与観察、震災経験に関する住民へのインタビュー調査などを、おおむね計画通りに遂行することができた。 これらの調査を通した現段階での研究成果については、原発事故後の福島における分断と原発災害経験の多様性を主題とした論文を執筆し、現在校正中であり、平成30年度に公表する予定である。また、コミュニケーション分断とユーモアの実践を主題として、2017年11月の日本社会学会において口頭発表を行った。 加えて、経験社会学的な理論研究や、震災経験をめぐる事例研究に関連する文献および資料の収集についても、計画通り並行して進めることができ、先行研究の整理および検討を進展させることができた。 以上の理由から、本研究の現在までの進捗状況は、おおむね順調に進展している、と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究については、おおむね当初の計画通りに推進する予定である。 平成30年度は、震災経験から転化した日常的な知識がコミュニケーションにどのような影響を与えているのか、という研究課題へと移行しながら、原発事故後の福島におけるコミュニケーションの実態について、さらなる実証的研究を展開していく。とくに、平成29年度の研究成果を通じて明らかになった、今後本研究が注目すべき事例として、原発事故後の福島における笑いやユーモアをめぐるコミュニケーションの実践を中心的に取り上げ、研究課題の解明に取り組んでいきたいと考えている。 現地調査については、中通り地方における通時的なフィールドワークを中心に進め、引き続きセンシティブな震災経験の問題を取り扱うにあたっては、丁寧かつ誠実な取り組みを継続していく。 研究成果の公表については、調査を継続しながら、これまでの実証的研究の成果の取りまとめへと着手し、学会での口頭発表および学術雑誌への論文発表を行っていく。 さらに、コミュニケーションに関する理論的研究や、福島における原発災害被害に関する事例研究を中心に、先行研究の整理および検討を並行して進めていく。
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