2017 Fiscal Year Annual Research Report
日米企業間における非裁量保守主義の相違に対する一考察
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17J04608
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
呉 懿 神戸大学, 経営学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 会計保守主義 / 実証研究 / 国際比較研究 / 非裁量保守主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
保守主義に関する先行研究では、債務契約を最も重要な決定要因とするものが多い。一方、最近の研究成果では、債務契約よりも会計基準の拘束力こそ保守主義における最も重要な決定要因となっていることがわかり、それが非裁量保守主義と呼ばれている。今年度は、、国際比較の視点より非裁量保守主義を含めた会計上の保守主義(accounting conservatism)の決定要因を考察し、その成果を博士論文として発表した。本研究はまず会計基準が持つ拘束力、即ち非裁量保守主義に注目し、情報環境が保守主義、ひいては会計品質に与える影響を実証的に証明した。その上、非裁量的保守主義に加え、債務契約及び株主構造を中心に会計上の保守主義の決定要因とその経済的帰結を確認している。 その成果の一部が研究課題「日米企業間における非裁量保守主義の相違に対する一考察」であり、2018年度のThe American Accounting Association Annual Meeting ( San Diego, CA)において発表できた。また、The Japan Accounting Review(TJAR)の第7回International Conferenceで報告し、参加者と討論を行った。さらに、日本企業が置かれている独特な経営環境を着眼点とする論文をReview of Accounting Studiesに投稿中である。 本研究の貢献点は第1に保守主義は既に、多くの研究が存在している中、新たな分析手法を提示し、従来の結論の妥当性を確認し、その上に追加する形で証拠を提示した。第2に本研究の分析結果では会計基準自体の変更だけでは必ずしも高品質の会計情報が導かれるわけではないことと示唆される証拠を掴めたと考えられる。第3に本研究は国際会計基準へのコンバージェンスをはじめ、将来の基準設定の参考にも有益な示唆を与える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題は順調に進展している。以前の研究では日本において会計基準による拘束力が米国ほど強くないことがわかっており、債務契約が企業の会計処理に与える影響は一様ではない証拠も得られた。現段階では、分位点回帰とLASSOと分位点回帰を使って米国のデータで再現し、最小二乗回帰を使った米国の先行研究とほぼ同一の検証結果が得られ、改めて日本における会計環境の独自性を確認できた。研究課題には含まれていないが、中国も検証対象に加え、同一の分析を行った。検証の結果、最も損失計上が必要とされる領域ではアメリカの結果と異なことが確認された。言い換えれば、日本と中国の上場企業においては、損失がある時は大きく、ある時は適度に、ある意味では経営者の意図に合わせさせられると解釈することができる。更に、日本と中国では負債比率の大きさがより保守的な会計手続きの実施と密接に関連していることがわかり、債務契約が最も顕著な決定要因となることを発見している。次に、日米間における保守主義的な会計処理に生じた差異について、株主構造を中心に日本が置かれている独特な経営環境が会計上の保守主義に与える影響を検証した。日本においては、取引する金融機関と密接な関係を保つ慣行があり、金融機関自体が安定株主になっている可能性もある。また、株主の構成も米国とは異なり、企業間取引を強化させるべく、長期的協力関係を重要視する株主が多い。分析の結果、安定株主持株率が高い企業ほど、保守性の程度が低いことが判明された。また、その他保守主義の決定要因を分析に加えても、安定株主持株率が高い企業における保守性の程度が必ずしも向上するとは限らないことがわかっている。言い換えれば、日本において企業をめぐるステーク・ホルダー間の利害対立が米国ほど強くなく、それが会計基準の拘束力の低下につながり、日米企業間相違の一因となっていることが推測される。
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Strategy for Future Research Activity |
現段階では会計基準の国際的収斂が進んでいるとはいえ、同じ会計取引を記録する場合でも採用される保守主義の程度、ひいては会計情報の品質が異なるとの知見を得ている。今後の研究ではこの研究成果を踏まえ、引き続き非裁量保守主義に焦点を絞り、日米両国における保守主義の差異及びその決定要因を追跡していく。 研究方法について現在応用している分位点回帰とLASSOに加え、限界効果(Marginal Effect)を応用する予定である。重回帰分析において決定要因相互の作用により、分析対象が受ける影響が異なるとされてきた。それを検出するために、交差項(interaction term)を分析に加えるのが一般的である。しかし、その交差項が統計的に有意な結果が得られない場合、因果関係が成立するかどうか、あるいは決定要因間における相互作用がわからないとしてきた。ただし、限界効果を応用すると、それぞれの効果を定量的に検出することができる。さらに、限界効果を採用するメリットとして、それぞれの決定要因が一単位変化するごとに、分析対象に与える影響を測定し、より正確に評価することができると考えられる。 また、日米企業を検証対象とし、それぞれの会計領域における保守主義の実態及びその決定要因を比較する横断的研究に加え、中国及びヨーロッパをサンプルに追加し、各国の情報環境が会計品質に与える影響を明らかにし、決定要因を統合的に抽出することを目指す。中国及び米国に関する基礎データは既に整理済みであり、今年度はヨーロッパ各国のデータを入手し、論文作成に取り組む予定である。さらに、外国ジャーナル及び学会にに投稿し、国内と米国だけではなく、アジアやヨーロッパの学会で論文の発表を行うことによって、研究をさらに加速させると考えている。
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Research Products
(1 results)