2017 Fiscal Year Annual Research Report
戦前戦中期日本と出産の医療化――都市部の医師常駐施設における出産の動向
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17J04654
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
由井 秀樹 静岡大学, 人文社会科学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 出産取扱医療施設 / 都市部 / 戦前、戦中期 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、先行研究でも手付かずであり、東京、大阪に比べて規模が小さいので、市域全般の医療施設出産の動向を把握しやすい、という理由で初年度は京都市に着目した。京都市の発行した統計資料を用い、出生数、死産数、出産を取扱っている医療施設の数・名称・所在地、産婆数、産婆養成施設の数・名称・所在地などの年次推移を整理した。個別施設の状況について、京都産院、京都帝国大学付属病院、京都市児童院、京都府立医科大学の状況について、検討した。以下、収集・参照した資料から、明らかになった点である。 ①出産介助を扱っていた医療施設=産婆が勤務していた施設の数、名称、所在地の一覧が明らかになった年で、最も新しいのが1931年である。この年に京都市には37の出産取扱医療施設があり、それらを地図上に配置した。37施設のうち、35施設は市内中心部に集中していた。 ②京都産院や京都府立医科大学は産婆養成施設でもあり、当初は実習用の学用患者の確保に苦心しており、医療施設から貧困層への働きかけが行われていた。低所得層の囲い込みに成功してからは、これらの施設でも有料患者=所得のある層の利用が増加した。 ③出産介助数が把握できたのは、京都産院、佐伯医院(京都産院同様、佐伯理一郎が設立した施設)、京都市児童院、京都帝国大学付属病院である。これらの施設の全ての数値を把握できたのが、1934年-1941年であり、京都市の出産数に占める割合のピークは1937年の21.7%であった。 ④往診による出産介助を行っている医療施設があり、地域の出産の大多数が医療施設で行われていたわけではないものの、必要に応じて医療システムに搬送されるシステムが既に1930年代には整備されており、この地域の出産の大部分は直接的/間接的に医師、医療施設の管理下にあったといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、初年度は東京、大阪、京都について、全体の出産数と医療施設での出産数を突き合わせ検討する予定であったが、一つの都市を詳細に検討する方がかえって効率的に調査を進められると考え、京都市に絞ることになった。結果、個別施設の状況を詳しく検討することができたのみならず、出産取扱医療施設を地図上にプロットし、京都市中心部に極めて密集していたことが明らかになるなど、従来の出産の医療化論では見逃されていた、各地域の詳細な状況が明らかになりつつある。また、初年度の調査については整理しており、2017年12月の日本科学史学会西日本研究大会、2018年3月のインクルーシブ医療・社会サービスプロジェクト研究会で発表を行っており、2018年度前半にも、学会発表及び論文の投稿を予定しており、既にその準備は終えている。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目は、行政による活動報告書などが残されている公立産院や、全国的にも影響力の大きかった産婆養成兼出産取扱医療施設である緒方病院を擁する大阪市に注目し、特に「医師常駐施設において、誰がどのように出産介助を行っていたのか」という点について検討を進める。具体的には、木村(2012)などの先行研究を参照しつつ、産婦人科医、助産職向け雑誌、テキストを分析し、「正常産」と「異常産」の内実の変遷過程を辿るとともに、大阪市立の公立産院や『助産の栞』などの緒方病院関連書籍を精査して大阪市の個別施設の状況を検討しながら、初年度に手に取った京都市の施設(京都帝国大学附属病院、京都府立医科大学附属病院、京都産院、京都市児童院)の状況が記された資料を合わせて精査し、医師常駐出産取扱施設における出産介助役割のすみ分けについて検討する。また、初年度に京都市について行ったように、大阪市の衛生行政関連の資料を分析して出産取扱医療施設の名称及び所在地を可能な限り把握し、地図上にプロットする作業を行い、出産取扱医療施設の分布状況を把握し、京都市の状況との比較検討を行う。 初年度の研究成果を日本保健医療社会学会大会及び、医学史研究会総会で報告するとともに、論文を医学史研究会の『医学史研究』に投稿する。また、初年度の研究成果の一部及び、2年めの研究成果を京都で開催されるPopulation and Reproduction in Japan: From the Perspective of Global History で報告し、論文をJapan Forumに投稿する。
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Research Products
(1 results)