2017 Fiscal Year Annual Research Report
ライフスタイルの地理的分析に基づく首都圏における住環境の質的圏域性に関する研究
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17J04661
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
吉江 俊 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 住環境 / 地域像 / 住宅広告 / 首都圏 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度の研究業績は以下5点にまとめられる。第一に、文献や既往研究から、住宅供給の市場化が本格化する前の住環境変化や既往研究の整理を行った。ここから、戦後の住宅供給には大まかに分けて「マス・ハウジングの時代(~73年)」「高級マンションブームの時代(~93年)」「都心居住マンション大衆化の時代(94年~)」の3つの区分ができることがわかった。 第二に、各国の政府統計を用いて、日本の比較対象となりうる他の先進諸国の住環境変化の概観を行った。本調査から、西欧諸国や日本を含めた「Global North(北の先進諸国)」では、グローバリゼーションと市場化のふたつが住環境変化の原動力となりつつあることがわかった。また日本が「民間企業による住宅供給が最も急速に成熟した国のひとつ」であるならば、ドイツは「移民の流入や海外からの不動産購入が最も加速している国のひとつ」として、ケーススタディの対象となりうることがわかった。 以上の理由から第三に、筆者はドイツに5か月間研究滞在し、民間企業によって開発された近年の住宅プロジェクト205ケースを分析し、実際にそのうち20か所を視察した。本調査から、日本の都市計画分野で注目されてきた「住宅組合・社会住宅・賃貸中心」という戦後以来のドイツの住宅環境は、グローバリゼーションと市場化を背景として変化しつつあることが明らかになった。 第四に、日本の首都圏を対象に、住環境の価値や欲求が実際の都市空間の上でどのように広がり、変化してきたかを分析した。その結果、(1)都心回帰下における民間分譲住宅の立地および価値変化、(2)住宅地価高騰・下落とともに生じる地域像の遷移、(3)特異な地域像の遷移を遂げる地域の実態を、住宅広告の地理的解析と住宅地図調査・実地調査を通して明らかにした。 第五に、以上の調査分析を踏まえて、日本の首都圏の住環境変化の課題を整理した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請者は、民間分譲住宅の大衆化の過程などの研究の社会背景整理、先進諸国のなかでの日本の住宅供給の位置づけを行ったうえで、首都圏の住環境変化の実態を住宅広告に描かれる居住イメージを通じて分析するという第一年度目の研究目標を達成している。 住宅広告の内容と住宅地図の分析、実地調査等を組み合わせることによって、地域像のような無形の環境変化と、その背景となる建物等の物理的環境変化の相互の関係を明らかにした。研究成果は日本建築学会の査読付き論文に掲載されるなど、一定の評価を得ている。それだけでなく、ミュンヘン大学を拠点として5か月間の在外研究を行い、ドイツで行われている住宅開発の先進事例を調査・報告した。この活動を通じて分析対象を拡大し、外国人居住者の流入に伴う大都市の住環境変化を、日本で行った研究と同様の手法で分析することにも成功している。 また、アーヘン工科大学主催による2018年夏開催予定のサマーアカデミー「Growing Bad? (Sub-)Urban Space under Housing Challenge- An international Perspective」のセッション企画者のひとりとなり、自身の研究テーマに近い外国人研究者との学術交流を深めるなど、幅広く研究活動をダイナミックに展開している。以上から、期待以上の研究の進展があったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度の研究課題は期待以上に達成されたので、2018年度には、当初の計画を上回る研究を計画している。 第一に、これまで申請者は首都圏の新築民間分譲住宅を対象として分析を行ってきたが、研究対象を広げて、戸建住宅、公営住宅、賃貸住宅あるいは中古住宅などの変化を分析することによって、バブル経済崩壊後のわが国の住宅供給変化について多角的に論じることを試みる。 第二に、人口減少・経済の停滞により、今後新築民間分譲住宅の供給は少なくなってくると予想される。また、わが国では持ち家志向の減少が続く一方、賃貸住宅の質が低下しているなどの問題がすでに指摘されている。こうした住宅市場の課題点を整理したのち、これらを前年度の研究で用いた指標である「住環境価値」や「住環境欲求」という観点から分析する。 第三に、前年度の研究を通じて明らかになった「住宅供給の二重化」、すなわち住環境の多様化と均質化が別々の場所で同時進行しているというマクロスケールの分析を、よりミクロな実態を通じて詳細に論じていく。本分析を通して、住宅供給の市場化が長期的に持続可能でない変化を生じないように、自治体がどのような役割を負うべきかを議論することができる。分析に際しては、必要に応じて現地調査を行う。 以上の成果に加えて、申請者が過去3年間行ってきた住環境変化に関する研究・考察の成果をまとめ、論理だてて整理し、申請者の博士論文としてまとめる。
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Research Products
(10 results)