2017 Fiscal Year Annual Research Report
中華民国の対日賠償要求問題―米国の日本占領をめぐる米ソ対立を中心に―
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17J04680
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
団 陽子 神戸大学, 国際文化学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 中華民国 / 賠償 / 戦後処理 / 米中関係 / 米ソ対立 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、対日賠償要求問題に関する米中政府の文献史料調査に中心的に取り組みつつ、史料分析と論文執筆を行った。 中華民国の対日賠償要求が同国の思惑通りに処理されなかった要因については、これまで主に1948年に公になった米国の対日占領政策の転換や当時の国際情勢の変化による影響が論じられてきたが、本研究では賠償問題をめぐる米中間の交渉過程に注目し、中華民国の賠償要求に影響を及ぼした要因について検証を行った。事例として、対日戦終結後、初めて賠償問題として連合国の協議に付された旧日本海軍の艦艇処分問題を取り上げ、その処分問題に関わる交渉過程から見出される要因について2本の論文に分けて執筆した。その内1本は論文として掲載され、学術賞を賜った。その論文による検証の結果、中華民国の対日賠償要求はこれまで指摘されてきた米国の対日占領政策の転換や国際情勢の変化を待たずして、終戦直後から米国の対ソ政策の影響を受けていたことを指摘した。また、検証の過程では、中華民国外交部が何を根拠に、どのように賠償交渉を進めようとしていたのか、その一端を明らかにした。 さらに、中華民国の対日賠償要求をめぐり米中間に利害対立が存在していたのかどうかを検証するため、第二次世界大戦中に遡り、米中両政府が戦後の対日賠償要求についてどのような政策を指向していたのか、その相違点について米中の政府史料を基に分析を行った。この成果については、国際シンポジウムで報告し、査読ジャーナルに論文として投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の計画では、当初、台湾、東京での史料調査に加え、米国の国立公文書館、プランゲ文庫での短期の史料調査を予定していたが、昨年秋にメリーランド大学が平成30年度に申請者を訪問研究者として受入れすることを承諾してくれたため、米国での史料調査は平成30年度に集中して行うことにした。平成29年度は、特に台湾での調査に注力し、対日戦後処理に関する史料を幅広く収集した。それらの中華民国の政府史料を基に、同政府と米国を中心とする諸外国との賠償交渉過程を跡付け、中華民国の対日賠償要求が米ソ対立の影響を受けていた可能性を指摘した。このことは、戦後の東アジア地域における秩序の再編成過程や、米ソ対立が冷戦へと深化していく過程において重要な要素だと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、メリーランド大学を拠点に、これまで実践してきた一次史料を用いた歴史学的手法に加え、受入れ教授の指導のもとで米国の東アジア研究の最新動向を学び、新しい国際政治学の理論や方法論を自身の研究に積極的に取り入れていくことを目指す。そして、同大所蔵のプランゲ文庫や隣接する米国国立公文書館(NARA)にて、本研究に必要な米国政府の対中、対ソ政策、日本占領に関わる史料群を調査する。特に、本年度は連合国による対日戦後処理の協議機関であった極東委員会に注目し、そこで行われた賠償に関する協議過程から戦後の中華民国の国際的な立場や同国から見た対日賠償要求問題の進展について考察を行う。
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