2017 Fiscal Year Annual Research Report
高解像度台風-高潮結合アンサンブル予報システムの構築と検証
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17J04771
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
豊田 将也 岐阜大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 台風強度 / 海洋混合層厚さ / アンサンブルカルマンフィルタ / GSM-GPVデータ / 高潮 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,既に先行研究で猛烈な台風や熱帯域の台風の計算においてその高精度性が確認されている高解像度台風-高潮結合モデルをさらに発展させ,リアルタイムの2~3日先の短期予測を可能とする高解像度台風-高潮結合アンサンブル予報システムを構築することを目的としている.本年度の実績としては,まず2000年~2017年に日本に襲来した台風49事例を対象に,高解像度台風モデルを用いた再現実験を行い,精度検証を実施した.その結果,台風の強弱に関わらず,高解像度台風モデルによって高精度に台風強度の時間発展を計算することに成功した.さらに,台風強度に大きな影響を及ぼす海洋場の高精度化のため,台風直下の海洋場データ同化手法の開発を行った.海洋場のデータ同化には4次元データ同化手法の1つであるアンサンブルカルマンフィルタの手法を採用し,Garwoodの海洋混合層モデルMOMと結合させ,観測された海水面温度を同化することで海洋混合層厚さを推定するデータ同化システムを構築した.また,構築したデータ同化システムの精度検証のために,2012年台風17号を対象に再現実験を行い,従来の気候値を用いた手法と比較することで,データ同化システムの有用性を明らかにした.この結果は,現在学術論文として土木学会論文集 (B2)に投稿中である.さらに気象庁全球数値予報モデルGSM-GPVデータを入力値として,2012年台風16号を対象に高解像度台風モデルを用いた強度予報実験を行った.その結果,台風の急発達から最盛期までの台風強度を高精度にとらえることに成功した.今後は,渦位逆変換法の手法を適用することで,前時間の強度予報結果から高精度な初期気象場を生成し,次の予報の初期値とすることで連続した台風強度予報の高精度化を図る.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
既往の台風モデルが有している台風強度の計算精度に対する課題を解消すべく,これまでに猛烈な台風の強度や熱帯域の台風強度の計算において高い精度が確認されている高解像度台風モデルを用いて,2000年~2017年に日本に襲来した台風49事例に対する再現実験を行い,精度検証を行った.その結果,台風の強弱に関わらず,台風強度の時間発展を高精度に再現することに成功した. 台風強度予報推定の高精度化を目的として,アンサンブルカルマンフィルタEnKFを用いて,Garwoodの海洋混合層モデルMOMに対して観測された海水面温度を同化することで海洋混合層厚さを推定するデータ同化システム (EnKF+MOM)を構築した.構築したデータ同化システムの妥当性を検証するため,フィリピン東方沖の海上地点を対象に2000年1月から2013年12月までの計14年間のデータ同化実験を行った.その結果,海洋混合層厚さを季節変化も含めて高精度に捉えることが出来た.さらに,高解像度台風モデルと結合させ,2012年台風17号の強度推定実験を行った.従来の気候値を用いる手法では,初期の急発達を再現できず,かつ最盛期における強度を過小評価する傾向にあるが,EnKF+MOMでは,2日間で約60hPaの気圧降下を精度よく表現できており,かつ最盛期の最低中心気圧も観測値である905hPaとほぼ一致する結果となった. また,気象庁全球数値予報モデルGSM-GPVデータを入力値とした,高解像度台風モデルによる台風強度に関する2日先予報を実施した.対象とする事例は九州で高潮災害をもたらした2012年台風16号 (1216号)とした.1216号は,2日間で88hPaの気圧降下が確認されており,最低中心気圧も900hPaを記録した猛烈な台風であるが,高解像度台風モデルによる強度予報では,精度よく台風の発達を捉えることに成功した.
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Strategy for Future Research Activity |
気象庁全球数値予報モデルGSM-GPVを用いた台風強度予報では台風の急発達,最低中心気圧は精度よく捉えられているものの,観測に比べその発達に時間的な遅れがあることが確認された.これは,初期値に含まれる台風気象場に問題があると考えられ,前時間での予報結果を次の予報の際に引き継げていないことに起因するものと考えられる.したがって,今後「渦位ソース同定」による3次元渦位場の生成,さらに「渦位逆変換法」を用いて高解像度台風モデルのための初期条件を前時間の予報結果から生成することで解決を図る. また,気象場と海洋場の高精度化によって台風アンサンブル予報を外力とする高解像度高潮モデルの改良を図る.さらに台風アンサンブル予報に伴う個々の台風メンバーによる微妙なズレに対応するため,高潮モデルに自動移動ネスティングを挿入する.これにより,これまで実現してこなかった高潮の力学的アンサンブル予報が可能となるものと期待される.これらの結果をまとめ,ハインドキャスト実験を実施することで予報システムの有用性について精度検証を行う.
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