2017 Fiscal Year Annual Research Report
4d遷移金属酸化物におけるスピン-軌道相関がもたらす不純物誘起強磁性の研究
Project/Area Number |
17J04840
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山本 貴史 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 遷移金属化合物 / ルテニウム酸化物 / 強磁性 / スピン-軌道相関 / 不純物効果 / 輸送係数測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は、強相関電子の持つスピンと軌道の自由度の相関がもたらす新奇な物性現象について研究しています。特に、ルテニウム(Ru)酸化物CaRuO3が示す不純物誘起強磁性に注目し、これとスピン-軌道相関との関係の実験的な解明を目指しています。この物質は常磁性金属である一方で、Ruサイトに数%の不純物を導入すると強磁性が現れます。先行研究では、磁性の源となるスピンの自由度に着目し議論されてきましたが、強磁性の起源は未だ明らかにされていません。我々は、この現象が非磁性不純物によっても誘起されることから、スピンの自由度だけでは説明が困難であると考えています。 そこで本研究では、非磁性不純物であるScを置換した試料を用いて、スピン-軌道相関の効果を調べるために、様々な物性計測を行ないました。具体的には、磁場下で輸送係数(電気抵抗率、ゼーベック係数、熱伝導率)を測定し、軌道の自由度の変化に由来する異常を捉えることを試みました。さらに、放射光X線分光実験による不純物周りの局所的な結晶・磁気構造の調査や磁性に対する圧力効果の実験も行なっています。 測定の結果、CaRu0.8Sc0.2O3において熱伝導率の有意な磁場変化が観測され、詳細な解析から、格子熱伝導率の変化によるものであることを見出しました。これは、スピン系の磁場制御に伴う軌道の自由度の変化が、強く結合する格子熱伝導率の変化として現れている可能性を提示する結果であり、スピン-軌道相関の寄与の探索という観点から重要な成果だと考えられます。他の輸送係数の磁場変化からスピン-軌道相関の効果を捉えるには至っていませんが、磁気比熱測定と併せた解析から、置換によって誘起される磁気状態について微視的な描像を明らかにしました。また、放射光X線分光実験や圧力実験については、現在解析を進めている段階ですが、十分に興味深い結果が得られています。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、不純物誘起強磁性へのスピン-軌道相関の効果を実験的に明らかにすることを目的としています。そして実際に、磁場中熱伝導率測定からスピン系の制御に伴う軌道の自由度の変調を示唆する結果を得ることに成功しています。また、他の輸送係数の磁場変化を解析することで、不純物誘起強磁性について理解が前進しました。これらの成果については、国内外の学会で報告するとともに、内容の一部について学術論文にまとめ発表を行なっています。以上のことから、研究としておおむね順調に進展していると考えています。
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Strategy for Future Research Activity |
測定された熱伝導率の磁場変化については、さらなる定量的な解析を進め、軌道の自由度がどのように関与しているかを具体的に明らかにする必要があります。そのために、電子-格子相互作用やスピン・軌道相互作用を考慮した理論計算を行なう予定です。これは、現在進行中の放射光X線実験や圧力実験の解析結果と併せて、総合的に推進していきます。特に、放射光X線分光実験の結果を解析することで、不純物まわりの微視的な情報がある程度明らかになるため、その結果を理論計算に反映させることができると期待しています。
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