2018 Fiscal Year Annual Research Report
共生進化の鍵となる遺伝子水平転移:その分子プロセスの解明
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17J04887
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
畑 貴之 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 遺伝子水平転移 / 転写開始点 / 実験進化学 / エピゲノム |
Outline of Annual Research Achievements |
遺伝子の水平転移は、生物の進化や多様化に大きく貢献してきたと考えられている。しかし、遺伝子の発現に必要なプロモーター配列等が異なる生物種/ゲノムの間で、なぜ転移遺伝子は発現能を保持できたのだろうか。本研究では、遺伝子の水平転移現象を実験的に再現し、かつそれを大量解析することで、「転移遺伝子が、転移先の核ゲノムで発現能を獲得する分子プロセス」を解明する。 平成30年度は、前年度に引き続き、植物の核ゲノムに導入した外来のコード配列の転写開始点(TSS)の解析を進めた。解析の結果、野生型細胞で転写物の存在しないゲノム領域内に、コード配列のTSSを多数発見した。興味深いことに、これら新生TSSのほとんどは外来配列の挿入座位の上流100-200塩基以内に形成されていた。これら新生TSS下流の配列の塩基組成を解析したところ、当該領域がタンパク質コード遺伝子の5’非翻訳領域に類似した構造を有することが明らかとなった。さらに、野生型細胞のエプゲノムデータとの比較解析から、転移した構造遺伝子に新規の転写能を賦与する鍵となっているのは、核ゲノム上の特定のヒストンマークではなく、むしろ挿入部位のクロマチン構造そのものである可能性が示唆された。これらの知見から、真核ゲノム中に出現したコード配列が新たに転写能を獲得し、機能遺伝子が生まれる仕組みについて、具体的かつ包括的なモデル構築を行った。 また、多様な形質転換系統の混在するサンプル中の、個々の系統のクロマチン構造を解析するための、一分子大量平行エピゲノム解析法の開発に着手した。本研究では、プロモーター領域に特異的に局在するヒストンバリアントH2A.Zの解析をモデルに技術開発を進め、実験に必要な各種リコンビナントタンパク質の作製と、エピゲノム状態の検出系の開発にそれぞれ成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で解析を試みたコード配列の転写物は、多様な転写産物が混在するサンプル中に極微量しか含まれておらず、その個々の転写開始点を網羅的に解析することは、従来の手法では非常に困難であった。そこで本年度はまず、当該実験手法およびデータ解析スキームの改良に取り組み、挿入配列の転写開始点を高効率にマップできる手法の開発に成功した。結果、シロイヌナズナ培養細胞の核ゲノム中で、外来のコード配列の挿入に伴って新規に出現した転写開始点を包括的に解析することができた。当初計画案に従った配列モチーフ解析、および、野生型細胞のトランスクリプトーム・エピゲノムデータとの比較解析から、外来のコード配列が新規に転写活性化する上で必要な、受容ゲノム側の配列・エピゲノム要素を明らかにした。 また、一分子大量平行エピゲノム解析手法について、当初計画案よりも汎用性の高い手法の着想に至った。今年度は、その具体的なプロトコル、および、材料の準備を進めることができた。次年度中に、実験系の検討と、それを応用した挿入配列周辺のエピゲノム解析を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究から、シロイヌナズナT87培養細胞の核ゲノムに挿入されたコード配列の転写開始点周辺のゲノム領域が、オープンクロマチン様であることが間接的に示唆された。当該領域に共通するエピゲノムマークが見出されなかったことからも、外来配列の転写活性化とその挿入座位のクロマチン構造との関係については興味がもたれる。しかし、T87培養細胞には、利用可能なオープンクロマチンデータが存在しない。そこで次年度は、野生型細胞のゲノムワイドATAC-seq解析を行い、オープンクロマチン領域の推定を行う。得られた結果と、本年度解析した挿入配列の転写開始点情報とを比較解析し、「転移遺伝子が、転移先の核ゲノムで転写能を獲得する分子プロセス」について、クロマチン構造も含めたより包括的なモデル構築を行う。 また、一分子大量平行エピゲノム解析法の開発について、平成30年度中に必要な材料の準備まで進めることができた。次年度中に実験系を確立し、次いで、個々の挿入配列周辺のエピゲノム解析に適用することで、外来のコード配列挿入に伴ってエピゲノム状態が局所的に変化したか明らかにする。
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