2017 Fiscal Year Annual Research Report
自閉症スペクトラム障害児の自己他者認識の発達促進に関する長期縦断的支援と定量解析
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17J04992
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
関根 悟 慶應義塾大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 早期発達支援 / 定量解析 / 自閉スペクトラム症 |
Outline of Annual Research Achievements |
幼児が日常で最も友達と関わり社会性を学習する機会であろう追いかけっこなどの広空間での運動中の社会的な行動を支援するプログラムはほとんどなかった。申請者は, まず自閉症児3名に対して, 社会性の支援として運動中の追従行動の形成訓練を実施した。結果, 訓練前後で自閉症児の注視行動・身体接触・注視とともに生起する笑いが増加した。この結果を受け, 「運動・社会性発達支援プログラム」として本実験の手続きをプロトコル化し, 遊び場面における社会性の新たな支援法を開発した。さらに, 発達の定性的な評価指標として, 「運動・社会性発達支援プログラム」と共通のモジュールである「シャボン玉」「風船」「いないいないばぁ」時に実験参加児が生起させた行動をリスト化した。今後は, 本発達支援プログラムを用いて自閉症児の社会性支援をし, 訓練前後に定性的な評価を実施する。 さらに, 追従行動のモーションキャプチャを用いたモデルを筑波大学との共同研究で作成した。これまで「運動・社会性発達支援プログラム」の効果はアイコンタクト, 身体接触, 笑いなどのビデオ・コーディングによる分析が多かったため, 詳細な行動特徴の分析は困難であった。そこで, 申請者は, 追従行動をモーションキャプチャ・システムで計測するモデルを共同研究者とともに作成した。このモデルを使用することで, 自閉症児の社会的な行動を距離の変化や追従行動の生起時間などで定量的に評価できるようになった。今後は,このモデルを用いて「運動・社会性発達支援プログラム」を評価するとともに, 評価だけにとどまらず自閉症児およびセラピストにリアルタイム・フィードバックできるコンピュータ・プログラムを作成し, よりフィデリティの高い発達支援プログラムを実施する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
3年計画のうち, 注視行動に対する支援プログラムの開発を完了させた。二者間の対人相互作用の同期と凝集性の定量解析, 模倣課題を用いた自己他者認識の分析, 社会的強化密度の行動引き込みへの効果の検証, など多岐にわたる研究を, 自身が開発した独創的な手法を用いて進めている。 本年度の結果により, 初年度の目的であった注視行動の支援法が確立できた。また, 筑波大学の工学研究者と協働し, 2者間の対人相互作用の定量解析を進めた研究は, 世界的に見ても独創的な試みであり, 本研究の遂行を大きく進めることができた。 また, 多角的に支援効果を定量評価するため, 机上での同期行動の生起が発達支援の指標になるか検討した。研究参加初期に, 実験者がモデル刺激を提示する時間間隔 (Inter Trial Interval; ITI) と自閉症児が反応する時間間隔 (Inter Response Time; IRT) を計測した。結果, 自閉症児が提示された刺激に対する反応率及び連続反応試行数を増加させるにつれて, ITIとIRTが一致 (同期) していくことが明らかとなった。本実験から, 「同期」という共通の現象を通してフロア上および机上での子どもの社会性発達を捉えることができると考える。 自閉症児の自己他者認識の可塑性を検討するため, 模倣課題時における対側―同側エラー (対側の耳を触るモデル動作を提示した時に, 同側の耳を触るエラー) の生起率と自閉症重症度の相関関係を調べた論文を出版した。また訓練によって対側―同側エラーの生起率を減少させ, 自己他者認識の可塑性を示した。本研究結果は, 日本発達心理学会でシンポジウムの話題提供者として発表した。本研究結果から, 自閉症児の自己他者認識は内的な能力によって制限されているのではなく, 外的な刺激によって変容することができることを示した。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度, 注視行動に対する支援プログラムの開発を完了させた。本年度はまず, このプログラムの支援効果の頑健性を確かめるために, 6名の自閉症児を対象に追実験を実施する。その際に, 既に完成させた追従行動のモデルを用いて定量的な計測を実施する。 既に注視行動に関する支援プログラムを実施した自閉症児または発達年齢の高い子どもに対しては, 模倣スキル獲得の支援法の開発を実施する。そのために, タッチの回数および速度を定量的評価のできるデバイスを用いて参加児への支援効果を評価する。具体的には, 実験者と参加児の電位差を計測できるデバイスを装着し, 2人の手が触れた回数・時間間隔(ITIおよびIRI)・どちらから触れたかを計測する。既にデバイス自体は完成しており, 大人を対象とした実証実験を行った後, 子どもにも装着し, データを収集する予定である。 また, 本年度は「運動・社会性発達支援プログラム」の実装化のためにスタッフトレーニングに関する研究も開始する。具体的には, モーションキャプチャからリアルタイムでデータを取得し, 接近行動および追従行動の生起をリアルタイムで取得する。追従行動が生起した場合, それを形成し維持するための手がかり刺激を新人セラピストに提示する。具体的には, 子どもにビブスを着用させ, 追従行動が生起した時にそのビブスに装着しているライトを点灯させる。すでにビブスは完成しており, 実証実験の後, 実際に子どもに着用させてデータの収集を開始する予定である。
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Research Products
(11 results)