2017 Fiscal Year Annual Research Report
15世紀イタリア諸地域の工房の交流:ピントリッキオ周辺画家の体系的理解を通して
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17J05219
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
永井 裕子 九州大学, 人文科学研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | ピントリッキオ / ボルジアの間 / サンタンジェロ城 / ヴァザーリ / ジョーヴィオ |
Outline of Annual Research Achievements |
『15世紀イタリア諸地域の工房の交流:ピントリッキオ周辺画家の体系的理解を通して』をテーマとして、平成29年度は研究調査と研究成果の口頭発表/論文発表を行なった。
(1)6月から8月まで、ローマのヘルツィアーナ図書館やロンドンのコートールド研究所など、欧州各地の研究所や作品所蔵先にて、研究に必要な資料収集や作品調査を行なった。これらの調査を踏まえて、データベースを構築している。
(2)ピントリッキオとその周辺画家が制作したヴァチカン宮殿「ボルジアの間」壁画の先行研究を確認する中で、この壁画とサンタンジェロ城の壁画に描かれたとされる肖像に関して重要な論点が残されている点に着目し、史料や先行研究で言及されてきた肖像の真偽を検討する研究を行なった。この研究は、「ピントリッキオによる「ボルジアの間」の肖像画とパトロンの記憶」と題して、第97回九州藝術学会(宮崎県立美術館アートホール)にて口頭発表している。このテーマに関しては、さらに、16世紀の重要な美術批評家であったG.ヴァザーリとP.ジョーヴィオがこれらの肖像特定に関与していたこと、後者が所有していた著名人の肖像画にピントリッキオの描いた壁画に基づいた作品が含まれていた可能性を考察した。この成果は、第152回イタリア言語文化研究会(早稲田大学)にて「ピントリッキオによるアレクサンデル6世のための壁画と肖像への関心:ヴァザーリの記述とジョーヴィオのコレクションを参照として」として口頭発表したほか、東京大学大学院人文社会系研究科美術史学研究室紀要『美術史論叢』34号に「ヴァザーリとジョーヴィオによる著名人とその肖像への関心-ピントリッキオによるアレクサンデル6世の壁画を例に-」と題した論文としても掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ローマのヘルツィアーナ図書館やロンドンのコートールド研究所など欧州各地の研究所、またペルージャやアッシジの諸教会、アミアンのピカルディー美術館やシャンティリーのコンデ美術館など作品所蔵先における資料収集や作品調査では、日本で行うことが不可能な調査を遂行することができた。これらの関連作品情報の収集にはまだ不完全な部分も多いが、有益な成果を得ることができたと言える。今後は、まだ不完全な情報を順次補完していくとともに、これらの調査を踏まえたデータベースの完成と、その成果を発表する作業が残されている。さらに、平成30年度に行う予定のラファエロとピントリッキオの関係についての研究に必要な資料を、フィレンツェのマックス・プランク美術史研究所やウフィツィ美術館素描版画室にて収集することで、今後の研究が順調に行えるよう予備的調査を行うことができた。 また、ピントリッキオとその周辺画家が制作したヴァチカン宮殿「ボルジアの間」壁画の先行研究を確認する中で、この壁画とサンタンジェロ城の壁画に描かれたとされる肖像に関する問題に着目することとなった。この研究内容は、第97回九州藝術学会と第152回イタリア言語文化研究会における口頭発表、そして『美術史論叢』34号における論文掲載という成果につながった。この研究は当初の研究計画にはなかった論点であったが、ピントリッキオが周辺画家とともに行った大壁画制作におけるひとつの問題を扱った点で、本研究の進捗に大いに役立ったと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)画業初期のラファエロとの関係について ピントリッキオはフィレンツェと物理的接点を持ったことのない画家であったが、システィーナ礼拝堂壁画制作を通してギルランダイオやボッティチェリをはじめとしたフィレンツェ派画家を知り、晩年に移り住んだシエナでもトスカーナ地域の画家と関わりを持った。平成30年度は特に、シエナ滞在期のピントリッキオとラファエロの関係について取り上げたい。ラファエロが制作に関与したとされるピッコローミニ図書館壁画制作については、未だにラファエロの早熟な天才性を強調したG.ヴァザーリの批評の文脈に従った研究が多く、工房の主導者とその共同制作者という客観的視点で論じられたものではない。ラファエロの2点の素描と、それに基づいたとされるピントリッキオの描いたフレスコ画を比較分析し、両者の共同制作について考察する。 (2)ウンブリア=ラツィオ地域の画家との関係 ローマを中心とするラツィオ地域において、ピントリッキオはオルヴィエートでも制作活動を行っており、それらの機会にはこの地域の画家達を共同制作者として雇っていた。この町の大聖堂内陣壁画の制作と修復作業においては、アントニオ・ デル・マッサーロ(イル・パストゥーラ)が下請け画家として、大部分の作業を行ったことが文書史料から判明している。この画家についての研究は不十分であるため、個々の作品のさらなる分析が必要である。また、図像の型や様式が明らかにピントリッキオから強い影響を受けたウンブリア地方の画家アンドレア・ダッシージやティベリオ・ダッシージなどについても、同様の調査を行う。これらのウンブリア=ラツィオ地域のピントリッキオ周辺の画家たちについて共通している点は、ある特定の型の図像を踏襲している点にある。フィレンツェ起源の「欄干の聖母」やその派生図像を軸として、ピントリッキオとこれらの画家の影響関係を明示することを目指す。
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Research Products
(4 results)