2018 Fiscal Year Annual Research Report
東方キリスト教の信仰と知:中世アルメニア神学のキリスト論における科学知の受容
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17J05303
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
濱田 華練 筑波大学, 人文社会系, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 東方キリスト教 / 中世 / アルメニア / コーカサス / キリスト教神学 / 中世哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度に実施したアルメニアでの写本調査において新たに発見された未刊行資料の整理と分析を行った。 昨年度の調査で発見した13世紀のアルメニア人神学者ヨヴハンネス・オロトネツィの著作『天体の運行について』と、彼以前のアルメニア人神学者による天体論・宇宙論に関するテキストとを比較し、中世アルメニアにおける天文学の発展のプロセスを明らかにした論文"The Armenian Cosmology in the 12-13 centuries: From Nerses Shnorhali to Yovhannes Orotonetsi"(仮題)はおおむね完成したが、本年度中の投稿はかなわなかっため、2019年度上半期中に学術誌"Le Muséon, Revue d'études orientales"へ投稿することを予定している。 また、グラゾル・タテウ学派を代表する14世紀末のアルメニア人神学者グリゴル・タテワツィのムスリムに向けたキリスト教護教論のテキストを分析した。特に、彼がムスリムとの論争において、自身の信仰の正しさを証明するため「理性的な」叙述を目指したという点に着目し、アルメニア教会神学における「理性」の位置づけの変化に関する研究を行った。その成果は、研究を中世哲学会で発表する予定であったが、「理性」概念の発展について同時代のイスラーム圏およびギリシア・ラテン文化圏の状況とも比較する必要性を感じ、発表は2019年度へと持ち越した。 国外での写本調査としては、9月にアルメニアのメスロプ・マシュトツ記念古文書館(イェレヴァン)およびロシア・アカデミー東洋学研究所(サンクトペテルブルク)で実施した。しかし、予定されていたエルサレムの聖ヤコブ・アルメニア教会付属文書館は、同図書館での閲可が下りず実現できなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、資料上の制約からテキストの分析が難航した昨年度に比べると、研究の内容そのものは大きく進展した。しかし、研究が予想を超えた広がりを見せ、学会発表や論文という形にまとめるには、当初予定していた以上の時間と労力を要した。 本年度実施した主な研究は、「アルメニア教会における天文学の発展」と「中世アルメニア教会神学における理性の位置づけの変化」に関する二つであったが、いずれもアルメニア人著作家による他文化圏(ギリシア語・ラテン語・アラビア語・ペルシア語)からの学術的知識の受容について考慮せねばならず、影響を与えた非アルメニア語のテキストを突き止めることに多大な時間を要した。 また、アルメニア教会神学における「理性」の位置づけの変化に関する研究では、イスラーム圏やギリシア語圏・ラテン語圏の神学における「理性」の在り方との比較を試みたため、本来予定していたよりも広範囲の文献や先行研究をカバーすることになった。その結果、当初予定していた2018年度中世哲学会での研究発表には間に合わなかった。 このように、研究の内容そのものは大きく発展したが、研究成果の発表という観点から、当初の予定からはやや遅れているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、本研究課題の実施機関の最終年度にあたる。それゆえ、2018年度に実現できなかった研究成果の発表を行うとともに、研究の集大成となる著書の出版を準備する。 まず、昨年度の研究成果の発表として、2019年7月までに論文"The Armenian Cosmology in the 12-13 centuries: From Nerses Shnorhali to Yovhannes Orotonetsi"(仮題)を投稿する。そして、11月に開催される中世哲学会大会において、研究発表「中世アルメニアにおける“理性”概念の変化―グリゴル・タテワツィのムスリム反駁を例に」(仮題)を行う。 残りの期間は、基本的にこれまでの研究成果をまとめた著書『東方キリスト教の信仰と知:中世アルメニア神学のキリスト論における科学知の受容』(仮題)の準備に専念する。現時点での章立ては以下の通り。 序;1章「グラゾル・タテウ学派ーアルメニアのスコラ学;2章「グラゾル・タテウ学派における「科学知」の発展」;3章;「神秘は理性でもって証明できるか―グリゴル・タテワツィによる「理性」概念の神学への導入;結論 また、2019年度は昨年度までの調査では未着手の写本コレクションの調査を行う。昨年度、閲覧許可が下りなかった聖ヤコブ・アルメニア教会付属図書館(エルサレム)に加え、聖ラザロ・アルメニア・カトリック教会(ヴェネツィア)図書室に所蔵されている写本の閲覧・複写のため、9月1日から11日までエルサレム、9月12日から21日までヴェネツィアへの出張を予定している。
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Research Products
(4 results)