2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J05620
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
内田 翔太 東北大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 外来種 / 種間相互作用 / 海洋島 |
Outline of Annual Research Achievements |
海洋島は生態系の単純さから外来種の影響が顕著で、種間相互作用を明らかにすることは外来種問題を解決する上でも非常に重要である。また間接効果を無視した外来種駆除は予期せぬ効果を生み出す。外来種の駆除による意図しない効果は蓄積された知見から予期できる場合もあるが、その状況によって大きく左右されるため、在来種-外来種の種間相互作用を個々の事例ごとに把握し、その事例を含めた様々な群集で今後起こりうる応答を評価する必要がある。現在、小笠原諸島母島では先行研究によって明らかとなった在来ノミガイへの影響緩和を目的として、ツヤオオズアリの駆除が一部で開始されている。しかしこの系では、他の捕食者を含めた種間相互作用については十分把握しきれていない。そこでアリに加えて、在来陸貝に大きく影響を与えているプラナリアを含めた、外来捕食者-在来陸貝の複雑な種間相互作用を明らかにする必要がある。 2017年も母島での調査を継続して実施した。ツヤオオズアリの駆除が実施された箇所において、ツヤオオズアリの密度が減少するとともに、先行研究で行った2015年の調査でノミガイ類がわずかに分布していた地点についてはノミガイ類の密度の回復傾向が見られた。しかし、2015年に非常に低密度であった地点に関してはツヤオオズアリの密度が減少しても回復が見られなかった。 また大東諸島において、網羅的に陸産貝類を含めた土壌動物と陸士プラナリア類、ツヤオオズアリの分布・密度調査を実施し、ニューギニアヤリガタリクウズムシの分布する地点においては在来陸産貝類の密度が小さく、ツヤオオズアリの密度が高い地点では小型樹上性陸産貝類の密度が小さいという小笠原と同様の傾向が見られた一方、ツヤオオズアリとニューギニアヤリガタリクウズムシが互いに影響し合っているといった傾向は確認できなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
母島のツヤオオズアリ駆除に伴った、アリ類、陸産貝類、土壌度物の影響のモニタリングは計画通り実施した。ツヤオオズアリの駆除に伴ってノミガイ類の増加が予想されたが、ノミガイ類の増加が起きたのは2015年にわずかにノミガイ類の生息が確認された地点が主で、2015年に確認されなかった地点や非常に低密度であった地点については個体数の回復が見られなかった。ツヤオオズアリの駆除が成功すると陸生プラナリア類の密度が上昇する可能性が予想されたが、現時点では確認されていない。またオキナワベッコウの密度が上昇し、オガサワラヤマキサゴ類の密度が減少するという仮説を立てていたが、こちらも現状確認されていない。駆除開始から十分な時間が経過してないためであると考えられる。 大東諸島においても陸産貝類、ツヤオオズアリ、陸生プラナリア類の分布・密度調査を実施した。陸生プラナリア類が在来陸産貝類の密度の減少を、ツヤオオズアリが小型樹上性陸産貝類の密度の減少を引き起こしたと考えられ、先行研究と同様の結果だった。しかし母島の状況ところなりツヤオオズアリのいる地点でも陸生プラナリア類が多く確認された。当初、1)ツヤオオズアリがプラナリアを捕食によって排除した、2)ツヤオオズアリがプラナリアの餌となる陸産貝類を減少させたためプラナリアも減少した、という2つの仮説が考えられたが、仮説1は棄却された。仮説2についてはプラナリアが外来陸産貝類や他の土壌動物を利用できたために大東諸島では母島と同様の現象にならなかった可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
母島のツヤオオズアリ駆除地域でのモニタリングは継続して実施する。同様に陸産貝類とツヤオオズアリ、プラナリアの分布・密度調査を南西諸島においても実施し、海洋島と大陸島に共通する現象なのか、海洋島に特異な現象なのかを把握する。南西諸島は面積が広大であるため、既知の陸産貝類相を精査し、最適は調査地の選定から行う。 ツヤオオズアリと陸生プラナリア類の餌として利用する陸産貝類の選好性の実験を実施する。南西諸島からヤマキサゴ類やオキナワベッコウ、ノミガイ類を採集しツヤオオズアリに与え、最適な種・サイズを推定する。 また、陸生プラナリア類の食痕と見られる殻が見つからなかったため、上記の実験の副産物である殻を利用して、殻表面の粘液からプラナリアのDNAを検出し、捕食した種を特定できるか確かめる。確認後、南西諸島の野外で採集した殻を用いて、同様に捕食者の特定を行う。小笠原の陸産貝類は天然記念物であるため母島のモニタリングで確認された粘液の付着している殻は持ち帰らず、表面を綿棒でこすることで粘液の採集を行う。採集した粘液を用いてプラナリアの分布・捕食圧の推定を行う。 安定同位体比解析を用いた食物網解析を行う予定であったが、プラナリアに関しては直接的に食性を把握することができる消化管内容物のメタゲノム解析の検討をする。
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