2017 Fiscal Year Annual Research Report
摩擦調整剤分子膜の潤滑メカニズムの解明に向けたマルチスケールシミュレーション
Project/Area Number |
17J05680
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小林 敬之 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | シミュレーション / 潤滑 / 分子動力学法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,マルチスケールシミュレーションによる解析を行い,実用に即した系における有機摩擦調整剤の境界潤滑メカニズムを解析することを目的としている.そのために,境界潤滑における化学反応を再現できるように従来の粗視化分子モデルを改良し,そのモデルを流体シミュレーション手法に接続することにより,マイクロメートルのスケールで分子レベルのシミュレーション解析を行う.本年度は,(1)境界潤滑における温度変化の影響を調べるために,古典分子動力学法を用いたシミュレーション解析を実施し,(2)同一のソフトウェアで粗視化分子モデルを用いたシミュレーションと流体シミュレーションが実行できるように,オープンソースのシミュレーションソフトウェアを拡張した.(1)の目的は,本研究で対象とする潤滑現象において,圧縮熱等による温度上昇がナノすきま領域の潤滑メカニズムに及ぼす影響を明らかにするためである.シミュレーション結果の解析により,せん断速度の増加に伴って潤滑液体のせん断粘度の温度依存性が小さくなることを明らかにした.現在,化学反応の影響を調べるために第一原理分子動力学法による解析を進めており,その解析結果を粗視化分子モデルへ反映する計画である.(2)により,粗視化分子モデルを用いた分子動力学シミュレーションが効率的な並列アルゴリズムで実行可能になり,同時に,格子法あるいは粒子法を用いて流体シミュレーションを実行する環境を構築することができた.今後,摩擦調整剤の分子濃度や潤滑液体の流速といった物理量を介して分子動力学シミュレーションと流体シミュレーションを接続する方法を考案し,目標とする潤滑現象へ適用する計画である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は,境界潤滑における温度変化の影響を調べるために,古典分子動力学法を用いたシミュレーション解析を実施し,また,粗視化分子モデルを用いたシミュレーションと流体シミュレーションが同一のソフトウェアで実行できるように,オープンソースのシミュレーションソフトウェアを拡張した.加えて,当初の計画では,密度汎関数理論に基づいた第一原理計算で化学反応の経路を計算し,その結果を基に粗視化分子モデルへ化学反応計算を実装する予定であった.この方法では,化学反応の経路,少なくとも化学反応の反応物と生成物が既知でなければならない.しかし,境界潤滑における化学反応は複雑であり,既存の情報では不十分であった.この問題に対して,反応性力場を使用した古典分子動力学法,あるいは第一原理分子動力学法を用いて化学反応のダイナミクスを計算する必要があると判断し,これらの計算法が実行可能なシミュレーションソフトウェアを検討・導入して解析を進めることにした.以上の経緯で研究計画の修正が必要となり,進捗状況に遅れが生じている.
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Strategy for Future Research Activity |
第一原理分子動力学法による潤滑現象の解析を行い,その結果をもとに粗視化分子モデルに化学反応計算を実装する.つぎに,全体の潤滑状態を流体シミュレーション,ナノすきま領域の潤滑状態を分子動力学シミュレーションで計算するマルチスケールシミュレーションを実現するために,両シミュレーションの対応する領域間で潤滑液体の流速と有機系摩擦調整剤濃度を交換するようにプログラムを接続する.その後,せん断速度と荷重圧力を実用に近い値に設定して,境界潤滑シミュレーションを行う.様々な条件のもとでシミュレーションを行い,ナノすきまにおける有機系摩擦調整剤分子のダイナミクスと全体の潤滑特性の関係に着目して結果を解析し,体系的な現象理解を試みる.
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