2017 Fiscal Year Annual Research Report
ジャコバン主義の思想史的研究:「制度」ならびに「立法者」概念を手がかりとして
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17J05902
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山下 雄大 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | ジャコバン主義 / フランス革命 / 立法者 / 制度 / ルソー主義 / サン=ジュスト / ロベスピエール / ビヨ=ヴァレンヌ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度(2017年度)は予め作成した研究計画に基づき、ジャコバン主義による独裁が成立する1793年6月以前のサン=ジュストとロベスピエールの理論的著作や演説を主たるコーパスとして、ジャコバン主義におけるルソー読解の差異に関する研究に従事した。 まずはサン=ジュストの『自然について』(1791-92年)の構成を丹念に分析し、彼の政治哲学におけるルソーとの合意と離反の諸相を明確にせんと試みた。さらに、国民公会議員に選出された1792年9月以降かつ公安委員会加入以前のその政治哲学の現実への適用を検討した。この作業の結果として、ルソーの「gouvernement」概念に対する評価がサン=ジュストにおけるルソー読解の賭金となっていることが明らかとなった。「政府」あるいは「統治」と訳しうるこの概念は、サン=ジュストにとって社会に統治者と非統治者の区別を導入する「人間精神の歪曲」の源泉と目されており、この見解を出発点として社会契約批判という反ルソー的な発想が生まれている。この構想はとりわけ、ジロンド派憲法草案を仮想敵とした「憲法に関する演説」にもっとも明確に適用されており、6月2日のジロンド派追放以降の革命政府および恐怖政治の理論化の過程でも重要な役割を果たしていることが浮き彫りとなった。 続いて、サン=ジュストの例と比較しながら、ロベスピエールのルソー読解の変遷に関する研究を遂行した。当初はルソーの見解に則り代表制の欠缺を疑問視していたロベスピエールは、1793年5月10日の演説において、「政府」および「行政官」の一般意志すなわち立法府からの独立に対する批判に転じ、国民公会の議員すなわち代表者を指す「立法者」の役割について詳述している。それゆえ、ジロンド派との抗争が激化したこの時期にルソー固有の発想からの離反が生じ、読解の変化が見られることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の中心的な成果としては以下の二点が挙げられる。先行研究が主張するようなジャコバン主義における同質的かつ抽象的な「ルソー主義」は存在せず、革命家各自の理論に即した受容がなされており、そのニュアンスがジャコバン主義のダイナミズムを構成しているということが解明された。また、ロベスピエール派およびその敵対者と目されているビヨ=ヴァレンヌに共有されている反ルソー主義的テーマとしての「統治への不信」を発見したことにより、革命政府および恐怖政治の成立における「立法者」の責任という論理展開を追跡する次年度(2018年度)の研究にとってきわめて有益な視座が獲得された。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の本研究の過程で浮上したのは、公安委員会の一員である前述のビヨ=ヴァレンヌの重要性である。委員会の最左翼に位置する革命家として、またテルミドールのクーデタでも主導的な役割を果たしたとしてロベスピエール派の仇敵と見なされてきた人物であるが、彼もまた『共和主義の原理』(1793年)においてルソーの自然状態論における人間の本性的社会性の不在に対して異を唱えている。また、ロベスピエールやサン=ジュストとは異なる立場から理論を構築しながらも、とりわけ共和政の人民にふさわしい習俗を涵養する手段としての「制度」という発想の類似性が指摘しうる。それゆえ次年度は、「立法者」ならびに「制度」概念の登場と用法に着目した上で、革命政府の理論化に多大なる影響を及ぼしたと目されているサン=ジュスト(1793年10月10日)、ビヨ=ヴァレンヌ(11月19日)、ロベスピエール(12月25日)といった演説に代表される三者の議論を「統治への不信」という観点から比較検討し、理論的背景の差異の究明に取り組む予定である。
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