2017 Fiscal Year Annual Research Report
水素結合液体や生体分子水溶液が示すマクロな緩和現象とミクロな素過程の相関解明
Project/Area Number |
17J06213
|
Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
柳瀬 慶一 信州大学, 総合工学系研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
|
Keywords | 誘電分光 / 小角広角X線散乱 / フェムト秒ラマン誘起カー効果分光 / 水素結合液体 / 両親媒性分子 / 感温性高分子 / 疎水性相互作用 / 秩序変数 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、分光・散乱法を駆使し、水素結合液体や生体分子水溶液が示すマクロな緩和現象とミクロな素過程の相関関係の解明を目的としている。当該年度は以下の課題で十分な進展が見られた。 (1)感温性高分子の水溶液が示す臨界現象に関して、小角・広角X線散乱法とマイクロ波・ミリ波領域における誘電緩和分光法を用いて、コイル・グロビュール状態を特徴づける微視的な構造学的特徴の探索及び、水分子集団が示す協同的ダイナミクスの解明に取り組んだ。その結果、コイル状高分子によって生じる相関長の発散挙動と、脱水和現象が連動していることを明らかにした。また、散乱曲線の精緻な分析によって、一般的な秩序変数である密度に加えて、相転移を支配する新規の微視的な秩序変数を同定した。 (2)ジアルキルジメチルアンモニウム塩(2HT)の水分散系に関して、ベシクル膜間に働く相互作用を多角的に検討した。まず、2HTは少量の無機塩の添加によってほとんど自発的に多重層ベシクルを形成することを確認した。誘電分光測定から、対イオンが膜に対して水平方向と垂直方向に揺らいでいることが明らかになった。また、純粋な水和効果では説明できない程の多量の水分子が、バルクとしての性質を失っていることを示し、帯電した膜によって生じる“depolarizing electric field”が主な要因となることを指摘した。散乱実験からは、膜間に働く相互作用に関して、隣接する揺らいだ膜同士に働く立体反発相互作用と電気二重層間に生じる反発相互作用に加えて、中長距離の親和的相互作用が働いている可能性が示唆された。 以上の成果は学術誌へ投稿中または修正稿の投稿依頼を受けている。これらに加えて、(i)水素結合液体の誘電・Ramanスペクトルの対応関係の定量化と(ii)共貧溶媒性を示す感温性高分子の溶媒和機構の解明の課題に対して実験を行い、現在分析を行っている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画に沿って、水素結合液体の動的感受率スペクトルを取得し、ランダム力の記憶効果を抽出する方法を実践することに加えて、共貧溶媒性を示す水/メタノール溶媒を用いた感温性高分子溶液の誘電スペクトルの取得と分析までを行った。特に、感温性高分子水溶液が示す臨界現象に関して新規の秩序変数を明らかにすることが出来たことを踏まえ、メタノールを含んだ系との暫定的な比較検討を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
共貧溶媒性を示す感温性高分子への溶媒和度の定量を試み、溶媒和機構に関して構造物性と併せて検討を行う。並行して、水素結合液体の誘電・Ramanスペクトルに関して両者の対応関係を定量化する手法の確立に取り組む。
|