2017 Fiscal Year Annual Research Report
「液体」上で細胞を飼う:器官構築の根幹に迫る新規アプローチ
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17J06276
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
石田 すみれ 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 細胞シート / 液体培養基質 / マトリゲル / 粘弾性 / 浸透圧 |
Outline of Annual Research Achievements |
動物の臓器・器官のほとんどは,細胞シートが変形(折りたたみなど)することで形作られる.カブトムシの幼虫も細胞シートを折りたたんで成虫の器官を形成するが,その折りたたみは体液中で起こることがわかってきている.そこで,本研究課題では,液体培養基質上で細胞シートの折りたたみ形成を観察し,その過程と力学的機序を明らかにすることを目的とした.申請者は,本研究課題を開始するにあたり,上皮細胞(MDCK細胞)を液状のシリコーン樹脂(以下,シリコーンオイル)上で培養すると,細胞シートが折りたたむという予備的データがあった. 平成29年度では,研究実施計画に従って実験を進めたところ,シリコーンオイルでの培養系に以下の3つの問題点が見つかった: (1) 培養基質の粘度は細胞シートの形態形成に変化をもたらす.そこで,カブトムシの体液の粘度を測定した結果,その粘度は水と同程度ほどに低く,シリコーンオイルでは体液の粘度を再現できなかった.(2) 細胞シートが変形してもシリコーンオイルの界面が変形していなかった.そのため,細胞シートが培養基質に接着しておらず,シリコーンオイルが液体基質として適していない可能性が示された.(3) 安定した実験結果が得られなかった. そのため,申請者は形態形成で広く用いられているMDCK細胞を引き続き用いる事とし,MDCK細胞の細胞シートを液体上で培養できる基質の再検討を行った.再検討の結果,ゲニピン処理したマトリゲルを用いることで,細胞シートの液体培養を可能にした.さらに,この細胞シートに浸透圧刺激を加えると,凸構造を同時多発的に形成することを世界で初めて発見した.今後はリン酸化MRLCをはじめとする各種阻害剤投与実験および免疫蛍光染色実験を行うことにより,凸構造形成における力学的機序の解明に迫る.平成30年度中にはこれらの結果をまとめ,原著論文として投稿する予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H29年度では,研究実施計画のほとんどすべてを遂行した.従来法の液体培養基盤の再検討が必要となり,培養系の確立に時間が取られてしまったが,ゲニピン処理を施したマトルゲルを用いることで問題を解決した.さらに浸透圧刺激によって,平らな細胞シートから同時多発的に凸構造が生じることも発見した.現在は,共焦点レーザー顕微鏡で三次元ライブイメージングでの観察に取り組んでいる.なお,実験系はすでに確立してあるので,近日中に実験結果を取得できる予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,研究実施計画をさらに推し進めるべく,細胞シートの変形における細胞内張力の寄与を検証する.具体的には,リン酸化したII型ミオシン調節軽鎖(MRLC)の免疫蛍光染色を行い,細胞内張力の局在を調べる.さらにMRLCのリン酸化阻害剤を投与し,凸型構造の形成における細胞内張力の寄与を検証する.以上の成果を原著論文にまとめる予定である.
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Research Products
(1 results)